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そして、例の後輩に対面する時が来た。思わず神田は立ち上がる。
「亀田 雄です。よろしくお願いします」
「牛田 侑です。よろしくお願いします」
「金田 佑です。よろしくお願いします」
デジャブっ!!
神田はびっくりした。
彼らは、バドミントンの顧問。
直感でそう感じていた。
信じられないくらいのイケメン勢。
すらっとした体形。
このひとたち、絶対にバド部の顧問だ。
しかし、ともかく。
久々に会話らしい会話をしたため、神田は感動していた。
「かっ…!」
皆んなが不思議そうな顔をする。
「かみたんだよぉ~!?みんなも、バドミントンやってるんだよねぇ~??」
皆んなが虫を見る様な目をする。
その視線に気づいてしまった神田は、涙が溢れてくるのを感じた。
「良い年して『かみたん』ってw」
「いや、俺ら顧問だけどw」
「なんでわかったの、きもい。」
3人が嘲笑う。
神田は思わず、へなへなと座り込んでしまった。
「自己紹介は終わったな。これからは、」
警官が神田を指指す。「ホモ01」
亀田を指指す。「ホモ02」
牛田を指指す。「ホモ03」
金田を指指す。「ホモ04」
「と呼ぶように。わかったか」
「「「「はい」」」」
ホモたちが幼稚園児のような返事をする。
ホモ集団を睨むと、警官は立ち去っていった。
暫くの沈黙を破ったのは亀田だった。
「ねえねえ、かみたん君」
ガッシャーンッ!
上から鉄の器が四つ降ってきた。それぞれの脳天にヒットする。中には大量の小麦粉が入っていた。
顔から粉を払うと、天井を見上げた。柱が組み込まれてできた天井の上には例の警官が居て、隙間からこちらを見下ろしていた。
「管理番号で呼べと言っただろうが!」
「何で連帯責任なんですか!?」
文句を言う牛田の顔に、警官が卵を投げつけた。顔面で潰れた卵からは中身が溢れ、酷い有様だ。
「酷い!」「可哀想!」「何やってんですか!?」
騒ぐ三人の顔面にも、卵が投げつけられる。
「グハッ!」
呻き声が後を絶たない。まさに地獄絵図と言わんばかりの光景だ。
「ホモは黙っとけっ!」
最後にパン粉を撒き散らした彼は、こう言って立ち去った。
「次は油だ」
と…。
「「「「いえっさー!」」」」
亀田、牛田、金田は顔からドロドロになった衣を剥がしながら、神田はそれを食べながら返事をした。
☆……………☆
「今日から、お前ら三人も残飯処理をしろ」
「「「是!」」」
「ホモ01、ちゃんと指導しろよ」
「是!」
「しっかり仕事をこなせた者は、位が上がるからな」
「「「「什么?」」」」
警官が舌打ちをした。
「あああ!?何で中国語で返事してくんだよウゼェなぁ!?」
金田があたふたしながら答える。
「俺…じゃなくてホモ04が中国語の教師やってたので…暇だから…あの…教えてたんです」
「俺」と言った所で警官がぎろりと睨んだ。
と言っても、金田の本音は違った。時は七時間ほど前に遡る。
「あの警官、何なんだよ…」
牛田がボソッと呟いたのが始まりだ。
「それな…」
夜の二十三時。警官に命じられ、翌朝までトイレの清掃をする事になった四人。
もちろん、いまだに全裸。
フルチンである。
ここ、有害ホモ収容所には、この四人しか罪人(ホモ)は居ない。
「きっと、本部で何かやらかして、ここに飛ばされたんだろw」
「つまり、この対応は八つ当たりか?」
暫くの沈黙タイムの後、金田が素手で便器を拭きながら提案した。
「なぁ、俺らの特技をあの警官に見せてやろうぜ!」
「俺」と言った所で上からたらいが落ちてきた。きっとたまたまだろう。
「ホモ01は算数得意だよ!」
「ホモ02は歴史!」
「ホモ03は英語!」
「ホモ04は中国語!」
また、急に静かになる四人。
「なぁ、歴史得意って、どんぐらい詳しいんだ?」
牛田が怪しそうに質問した。
「えーと…卑弥呼に金印を授けた人、その人の父親もお爺さんも叔父さんも叔母さんもみーんな名前知ってるよ!」
亀田が嬉しそうに言う。その時、その他三人は大声を出した。
「「「卑弥呼ってだーぁれ!?」」」
~沈黙タイム~
これでも、一応、公務員である。
みんな、学校の教師をやっていたのだ。
全員、部活も、バド部の顧問をやっていて、腕利きの教師だ。
「ホモ04は、どんくらい中国語わかるの?」
「昔、中国語の教師やってたんだ」
その時、歓声が沸き起こった!!
「それだぁぁ!」
「みんなで中国語で話して、あの警官を困らせるんだ!」
「「「「えいえいおー!」」」」
トイレのブラシを掲げると、四人は叫んだ。
因みに、この四人がまだ全裸であるとは誰も予想出来なかったであろう。
そして、今に至る。
警官はため息をつくと、急に話し出した。
「请停止说中文!」
「え…」
四人は驚いた。
「なぁなぁ、なんて言ってるんだ?」
小声で金田に聞く。
「中国語で話すなって言ってるんだよ…」
まさか、警官が中国語を話せるとは…。この作戦は失敗に終わった。
「じゃ、とりあえずコレが今回の残飯だ」
警官に渡された残飯を、神田は宝物の様に抱える。
そして、鉄格子が音を立ててしまった。
「…」
「中国語が無理なら英語じゃぁ!」
牛田が大声を出すと、警官が戻ってきた。
「Keep calm, you're 100 years too early to win me!(落ち着け!お前らが私に勝つには、100年早い!)」
三人は冷や汗が止まらなかった。ただ一人、亀田を除いて…。
「好き…♡」
三人は、ギョッとして亀田を見た。
「あの警官、カッコいい!理想のスパダリなんだが!?あー名前なんて言うのかなー!」
金田が心配そうに言う。
「ホモ02、大丈夫か?絶対やめた方が良いぜ?」
神田、牛田も頷き、警官を批判した。
「だって、顔も見たこと無いだろ?性格悪いしw」
警官はいつも帽子を深く被りすぎて、顔をまともに見た事は無かったのだ。
亀田が泣きそうになりながら言う。
「だってだって!カッコいいんだもん!」
「だからといって、二か国語できたくらいで…」
その時、警官が残飯回収に来た。
神田が急いで食べる…というか、吸引する。
それをゴミを見る様な目で見ながら、警官は言った。
「卑弥呼に金印を授けたのは曹叡、そいつの父親が曹丕、母親が甄氏、祖父が曹操で」
なんかよくわからん家系図を言っていく警官の話を、四名は正座しながら聞く。
「祖父の従兄弟が夏侯惇だ」
言い切った警官は、神田からビニ袋を引ったくると牢屋から出て行った。
「うおおおおおお!」
四人は歓声を上げた。
「カッコ良!」
「好きだわ!」
「結婚して!」
「やだー!僕が一番に好きになったのー!」
警官がまた戻って来た。
「今回、ホモ01以外は仕事をしなかったため、ホモ02、ホモ03、ホモ04の階級は一のまま。ホモ01のみ、階級をニとする。一の奴らはニの言うことを必ず聞く様に」
立ち去っていく後ろ姿を追いかける様に、四名は鉄格子にへばりつく。トカゲの水槽みたいだ。
「ホモ01はニだよ!だから、あの警官の男の子は僕のもの!命令ね!」
ギリリリという歯軋り×3が聞こえる。
「でも!階級が三になれば良いんでしょ!?」
三名は顔色を変え、急に牢屋内を走り出す。
「残飯んんんん!残飯はどこだぁぁあ!?」
「残飯を食わせろぉおおおおお!!」
ちなみに、この変人達はみんな、まだ全裸、そしてフルチンである。
「やめてよー!うるさいー!」
神田の悲痛な叫びは届かない。残飯の狂人共は遂に、共喰いを始めた様だ。
「お前を喰えばぁぁぁあ」
「位が上がるぞおおおおお」
しかし、ここは流石のバド部元顧問だ。ヘアピンを応用したチョップを、華麗なステップで避ける。
そして、オーバーヘッドストロークで脳天をかち割ろうと反撃に出る。
それをサイドのフットワークで回避すると、そのままクロスのロブ…という名の回転切りで相手を倒していく。
フルチンで乱闘を繰り広げるホモたち。
これは、ここ、ホモ収容所だから許されることであるため、読者様が公共の場でマネすることは、決してお勧めしない。
「クソッ!なかなか勝敗が決まらん!」
牛田は叫ぶと、遂に奥の手を使った。
これは、本当に、禁断の奥の手だ。
「牛田流 大気波!」
周りの三人は危険を察知すると、防衛体制に入った。
「神田流 大気波!」
「亀田流 大気波!」
「金田流 大気波!」
戦隊ヒーローの様に技名を叫ぶ。
「ハァァァア!!!」
ほぼ同士に放たれた大気波は、牢屋の中心で交わった。
途端、ズガガガガガ!という轟音が鳴り響き、その床に大きな穴を開けた。
全裸男たちが静止する。
説明しよう。
大気波とは、その名の通り、大気の波である。
「波ぁぁぁ」と叫ぶことで、口内で圧縮した空気を空気砲のようにして、大気中に放つことができる。
バドミントン部の顧問のみに与えられし特権である。
ただし、常人には普通はできないことであり、圧縮大気の反動で肺が破裂し、口が裂ける可能性が高いので、真似することは絶対にお勧めしない。
「あ…」
彼らの放った大気派は、綺麗に床に穴を開けている。
時、既に遅し。
「何やってんだ!?」
穴の中から警官が駆けつけた時には、四人揃って体育座り。
そして、大人気なくしくしくと泣いていた。
「だってぇー!牛…ホモ03がぁ!」
警官は眉間に皺を寄せると言った。
「仕方ない、仕置きが必要な様だ」
「仕置き」の所で、四人が期待の笑みを浮かべる。
9割9部9厘、性的な事でも考えているのだろう。
警官が穴の中に戻り、また出てきたときには両手に大きな紙包を持っていた。
「これを着ろ」
警官がニヤリとして紙包を開けると、中には丈の長すぎるTシャツが入っていた。
その途端。
「やったぁぁぁあ!」
歓声が沸き起こった。
「お洋服!お洋服!」
手を繋いで、回転しながら踊る変態達。察したであろう。
まだ全裸、そして、フルチンだったのだ。
「ねぇねぇ、警官のお兄さん。もしかしてこういう事?」
神田が話しかける。
「あ、アレか?」
牛田達もうんうんと頷く。
「ドレスは着せるために贈るのではない」
四人が揃って言う。
警官は厳しい目つきをしている。
「「「「脱がせるために贈るのだ!」」」」
警官の目つきがナイフのように鋭くなる。
「やっぱお兄さん、僕の事好き…?」
警官の目つきが余計鋭くなる。
「お前らの事は、恋愛対象外、人間対象外だと思っている。それに、お前らの場合、脱がせるも何も最初から全裸だろーが」
警官の辛辣な言葉にも、ホモたちは至福の表情を浮かべる。
「辛口……良いっ!!!」
新しい扉が開き始めた亀田。
ホモたちのカオスだった。
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