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「ねぇ、どうしてすぐに噛んじゃうの?」
ようやく秋を感じ始めた10月の終わり。
恋人の聖香がツヤツヤの唇を尖らせて、文句を言っている。
「このチョコ、高いんだよ。これはね、舌の上で溶かしながら上品な甘さと、鼻に抜けるかカカオの香りを楽しむ一品なの。それを口に入れた途端噛んじゃったら、味も香りも分からないじゃない。」
10月初めに日本でオープンしたばかりだと言う、海外で有名なチョコレート専門店の小さな箱を俺に見せながら、頬を膨らませる姿は、小さな子供が怒っているみたいで可愛い。
俺は聖香の表情をもっと変えたくて、わざと口の中のチョコをガリガリと噛む。
「もう!真白君は、何で私の言う通りにしてくれないの!」
聖香、はモグモグと動いている俺の頬を両手で押さえると、少し下から見上げるように睨む。
俺は5秒だけ聖香の視線を受け止めると、甘さの広がり始めたチョコを飲み込み、まだ唇を尖らせている聖香にキスをした。
「もう。そうやって、キスで誤魔化さないで。」
突然のキスに、睨んでいた目が丸くなり、今度は拗ねたように俺を見上げると、いつものように聞いてきた。
「ねぇ、私の事好き?」
俺は、コクンと頷くと、聖香の小さな顔を両手で包み、まだ口に残るチョコの甘さを伝えるように、キスをする。
「甘い。」
聖香は唇を重ねながら、キスの味を言葉にする。
俺たちは思わず笑い合って、じゃれ合うように抱きしめ合った。
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