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雪山の頂上、窪んだ場所に聖地はあった。魔力が溜まっているのが肌でわかる。
一歩入ると景色が変わった。
びゅうびゅうと吹いていた風の音が消えた。
緑の草地が広がり、花が咲き乱れ、ほのかに甘い香りが漂う。
嘘のように暖かった。頭上に春の空が広がる。
精霊たちの姿はない。
ルイスは首にかけていた虫籠を外し、頭上へ捧げ持った。言うことは決めていたのに、言葉にするのには時間がかかった。
「私は罪人です」
口に出すと同時に、涙がこぼれた。
「人の子を、禁じられた魔法で虫に変える罪を犯しました。
償いのため、契約に従い旅をしてまいりました。
どうかこの者を元の姿に戻していただけないでしょうか。
どうか、どうか――」
返事はない。
ただ「ぴしり」と音がした気がして、ルイスは虫籠の中、テオを見た。
茶色い蛹の殻に、ひびが入り始めていた。
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