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会話
「ルイス」
見上げるとテオがいた。記憶に焼きついたあの日の服装と同じ。
「ルイス、僕のためにありがとう。
おかげで元に戻れた」
優しい笑顔はまぶしすぎた。
ルイスは首を振る。
「違う、君にお礼を言われる筋合いはない。
全部僕のせいだ。
君は僕を恨むのが筋だ、許さなくていいんだ」
テオは膝を折り、ルイスの肩に手をかける。
ほんのりあたたかくて、それが嬉しくて、しかし申し訳ない気持ちがあって。
訳が分からないまま、ルイスの頬を涙が伝う。
テオは静かに話しだした。
「確かに最初は怖かったし、恨んだよ。
だけど虫の姿では世界をぼんやりとしか感じられなくて、記憶も薄らいで、心まで虫になりそうだった。
でも、だんだん君が変わっていくのがわかった。必死に旅する君の姿を日々感じて、人としての意識を保つことができたんだ。
さっき、精霊に会ったよ。
元に戻りたいか、蝶として生きるか聞かれたんだ。
僕は『人間に戻りたいです』って言ったんだ。
君ともう一度話したかった」
「テオ……」
「過去の君を許すことは出来ない」
「……」
「でも僕ら、これからは友達になれると思う」
ルイスはもう言葉が出なかった。
テオが差し出した手をルイスはしっかり握り、立ち上がった。途端に契約も、彼の魔力も全て体から消え失せたが、どうでもよかった。
「ありがとう……テオ」
気づくと2人は元の雪山にいた。
テオが吹きつける冷たい風によろける。
ルイスは彼を支えた。頬の涙を袖で拭いた。
「帰ろう」
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