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取り返しのつかないこと
翌日、ルイスは爽やかな気分で目を覚ました。
今日は彼の父が屋敷に戻ってくる日だった。
起きてすぐ母の部屋をのぞく。すやすやと眠る顔色は昨日より良さそうだ。やはりお母様のご病気にはこの土地の空気がいいみたい。
僕だけでも王都に行けないかお父様に聞いてみよう。大きな学校に入るんだ。
だが、明るい気分は父が帰ってくるまでだった。
「ルイス!」
屋敷に父の声が響いた。
「はい!」と返事をしたものの、ルイスはためらった。今のは再会を喜んでいるというよりも、腹を立てている声だった。
ルイスの父は広間にいた。
表情は硬く、眉間にはしわが寄っていた。
「私が町に着いてすぐ、夫婦が助けを求めてきた」
なんのことだろうと思った。
「彼らは、お前が息子を虫に変えたと言っている」
ルイスは固まり、ついで体がかあっと熱くなった。昨日遊んだ誰かがばらしたのだろう。余計なことを。
「魔法の痕跡も調べた。
だがお前の口から聞きたい。
やったのはお前で間違いないのだな」
召使いたちがこちらをうかがっている。怒られている姿は見られて気持ちのいいものではない。
「……はい。
でも、あいつが悪いんです。僕のやることにいっつも口を出してきて」
「なぜ禁書の魔法を使った!」
父の迫力に口をつぐむ。
「どうして禁じられているのかわからないのか」
ルイスは考えるふりをした。早くこの時間が終わればいいのに。父はため息をついた。
「……解くのが難しい魔法は、人を生きながらにして殺すからだ」
何を言われているかわからなかった。
「お前ももう十四、いい加減分別がつく頃だ。少し頭を働かせれば取り返しのつかないことになるとわかっただろうに」
下を向いた。楽しい気持ちが台無しだった。黒い感情の先はテオに向かった。
あいつが悪いんだ。
あいつが生意気だから。
僕より地位も魔力もない。
あんなやつに、何をしたっていいじゃないか。
「ルイス、私はお前を愛している」
唐突な言葉に顔を上げると、父は複雑な表情をしていた。
「だからこそ厳しい対応をする。
――支度をしなさい。お前はこの屋敷を出るのだ」
それは、夢見ていた明るい旅立ちではなく。
死を宣告するような物言いだった。
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