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旅路
翌朝、食事中に視線を感じた。
隅の席の男と目が合う。薄汚れた服を着て、土気色の顔の中で目だけがぎらついていた。
胸騒ぎがした。
ルイスは急いで食事をかきこみ、虫籠を首にかけて宿屋を出た。
自然と早足になる。
集落が遠ざかり、道は森の中に入った。ひと息ついて立ち止まる。
声が聞こえたのはその時だった。
「おい」
振り返る。
さっきの男が森の入り口に立っていた。
「お前、上等な服を着ているな。
有り金を全部出せ、俺は酒を飲むんだ」
男の手にあるナイフが光った。
声も出なかった。身をひるがえし、虫籠を抱えて駆け出す。魔法は使えない。走るしかない。
男が追いかけてくる。それほど速くないが、声はルイスの耳に届いていた。
「なんで俺がこんな真似を……なにが平等な裁判だ。俺は貴族だぞ? どうしてガキを襲ってまで金をせしめなきゃいけない、くそっ」
追い付かれる直前、とっさにルイスは男の後ろ目がけて金貨を投げつけた。
「金だ!」
男は金貨を追っていき、その隙にルイスは全力で走った。
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