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限界まで走って、ルイスはようやく足を止めた。
肩で息をしながら、そうっと虫籠の中を見ると虫は青菜にへばりついていた。安心する反面、ゆっくり動く様子がのんきそうで苛ついた。虫籠ごと捨ててしまいたいが、契約がある。
誰も助けてくれない。
「やればいいんだろ、やれば」
誰にともなく投げやりに言って、ルイスはまた歩き出した。
一週間が経った。
ルイスは着ているものを売り、古着を身に着けた。フード付きのマントで顔を隠して歩き、人とは最低限の言葉のみ交わした。金はあちこちに隠して持ち歩いた。
道中、柔らかそうな葉を見つけては虫籠に差し入れた。
宿屋には泊まらず、野宿をした。夜盗が怖くて早く寝て、闇に溶け込んだ。
不当な仕打ちには未だに納得していなかった。僕は悪くない。時が流れ、北の聖地へたどり着きさえすれば、このつらい旅も終わる。
だが、今までの暮らしと違う一人旅を続けるうち、心の中でもう一人の自分の声が聞こえるようになった。
「こうなったのは誰のせい?
本当にただ、北の聖地へ着けばいいの?」
理性は「考えないといけない」とささやく。
だけど、それはひどく恐ろしいことだった。暗い、底なしの穴の中を覗き込むような行為だった。それも、他でもない自分の中に空いた穴だ。
余計な考え事で足を止めるな。早く旅を終わらせて、家に帰るんだ。
頭を振って、先を急いだ。
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