静寂の檻

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『パーソナル防音室』が輝美の部屋に設置されたその日は、デスクや椅子の移動とかPC、機材などの接続の手伝いで僕も呼ばれた。    防音室の中は狭く、広さは幅1.5メートル、奥行き2メートルくらい。入口の扉側を手前として、奥に寄せてデスクと椅子を置いたら、それだけでもう床面積の半分が埋まってしまった。    天井の高さも同じく2メートルくらい。窓は一つもない。天井で換気ファンが回っているので窒息することはないだろうけど、精神的な閉塞感は否めなかった。 「これでも大きめのサイズを選んだのよ。作業の合間に身体を伸ばして休めるように」  もう二十歳を過ぎたのに、輝美の声はまるで子供みたいだ。甲高くて、舌足らずで。 その声が普段以上に明瞭に聞こえた。  これから彼女は、通常の配信中以外にも編集やサムネ画像づくりなど、一日の大半をこの箱の中で過ごすのだろう。 僕ならきっと耐えられないと思った。    試しに手を叩いて鳴らしてみると、パン!という音が余韻を残さずに、すぐに壁に吸い込まれ消えていった。 「なるほど〜、ぜんぜん響かないね。でも、こんなに音が響かないと空気が重たくなったように感じるな」 「そう?私は何も感じないけど」 「僕の気のせいかな?なんか耳から疲れが入ってきちゃうっていうか・・・」  この防音室の中で感じる圧迫感、閉塞感のようなものは、もしかして音の聴こえ方と関係しているのかもしれない。 「たとえば、お寺の鐘がゴーン!って響かなかったらおかしくない?バイオリンの中が空洞だったりピアノがあんなに大きいのも、音を綺麗に響かせるためなんだよ。きっと残響のない世界っていうのは人間にとって不自然なものなんじゃないかな」 「そうかしら?まあ何にしても、防音機能は高いみたいだから、私はそれだけで充分だわ」 「そうだね。輝美みたいに大声を出したり音源をチェックする仕事の人にはきっと絶好の環境なんだろうね・・・あ、もうこんな時間か」  午後から授業がある日だったから、役目も果たしたことだし帰ろうと思った。 「また何か手伝う事があったら言ってよ。それじゃ・・・ん?」 「どうかした?」 「なんかドアが開かない。ドアノブが回らないんだけど・・・」 「えっ!?まさか」  それを確かめるように輝美は自分でドアを開けようとした。ガチャ、ガチャガチャ。押しても引いても開く気配すらなかった。 「本当だ・・・開かないわ」 「まさか閉じ込められた!?」  
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