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その時、さっきまで気付かなかったドアの一箇所に僕の目が止まった。それはノブの真下、金属製の台座の部分に開いた3ミリくらいの小さな孔だった。
それは鍵穴にしては小さく、大した意味はないだろうと見落としていたけれど、 その時、孔の奥に白い突起物のようなのが見えて、それを押すと何かがあるんじゃないかと突然思い至ったのだ。
「輝美、何か先の細いもの、ない?」
「えっ?どうしたの・・・?」
「これが解除装置かも知れないんだ!何でもいいから細くて硬いものを探して!早く!」
輝美の目にたちまち理性の光が戻った。
「細いもの・・・これは?」
デスクの引き出しからプラスドライバーを出して言った。
「だめだ、太すぎる」
「じゃあ、これは?」
ノック式のボールペンを出して言った。
「惜しい!もう少し長さがあれば・・・引き出しごと貸して!」
僕は文房具や小物が仕分けられた引き出しのトレーを物色した。何か、何か一つくらいはあるはずだ。必要な条件を満たす道具が・・・。
「ヘアピン!これだ!」
僕は金属製のヘアピンの丸い側を孔に差し込んで樹脂製の突起物を押した。するとパチン!とバネの音がして、中で何かが解除された気配がした。すぐにドアノブに手をかけて回してみる・・・よし動いた!ドアも開いた!
「輝美、開いた・・・よ?」
言い終わった時は、彼女は見えない一陣の風となって防音室を飛び出して、 一目散にトイレに駆け込んだ後だった。
数分後。ジャーと水の流れる音がして、やがて輝美が戻ってきた。おぼつかない足取りで、まだ肩でハアハア息しながら。
「ギリギリ間に合ってよかったね・・・って大丈夫?聞こえてる?」
彼女の顔の前で手をササッと動かしても目が追わない。焦点が合っていないのだ。心なしか顔も赤く上気しているようだ。
「輝美、本当に大丈夫?」
心配になってもう一度聞くと、 彼女は返事をする代わりにハア・・・と色っぽい溜息を一つついた。
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