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かたつむりを無事に食べ終えた私は、安城が拾った流しのタクシーに乗り込んだ。
「今度は、もっといいところに連れていってあげるね」
安城の言う『いいところ』が果たしてどういう意味を指しているのか分かりかねるところではあったけれど。ガーリックの臭いのする息を耳元へ吹きかけられただけで、それ以上のことは何もなく帰宅の途に着いた……はずだった。
アパートの数メートル手前でタクシーを降り、安堵しながら玄関を目指して歩く。途中で背後に人の気配を感じ、早足でドアの前にたどり着いたその時には、すでに腕を掴まれていた。
「禿げオヤジにヤラれてきたの?」
振り返らなくても、声で分かる。園生君だ。
「ねぇ、痛い。離して……」
「禿げオヤジにヤラれてきたのかって聞いてんだよ!」
「安城さんのこと? ヤラれてないし、禿げてもない……」
「その服、どうしたんだよ。ヤラせて買ってもらったんだろ?」
「これは、ミサトさんが……」
「お前は俺のもんだろ。なぁ、幸!」
━━この先、こんなことがずっと続くの?
全く話の通じない園生君に苛立ちを覚え、気づいた時にはショルダーバッグを彼の股間へと振り落としていた。
「痛っ!」
幸いにも急所にヒットしたらしく。大きな体を傾けて、園生君は盛大に尻もちをついた。
大丈夫?━━などと、優しい言葉をかけるはずもなく。
━━痛みを思い知れ!
ドス黒い感情を渦巻かせながら、私は再び大通りへと駆け出した。
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