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列車は田舎ではよくあることだが、一時間から一時間半に一本くらいしかないので、帰りの時刻表を確認しておいた。駅に着いたのは、列車到着の十分前くらい。夜風が心地いいので、待つのはさほど苦にはならない。
もうそろそろかなあと思っていたとき、ホームにガガガと雑音混じりのアナウンスが響いた。
「タダイマ、列車ハ、十分、遅レテ、オリマス」
棒読みの自動アナウンスだった。
まあ、十分くらいなら、待てばいいか。急いでるわけじゃないし。そんな気持ちでのっぺりとした無人駅のホームをぶらぶら歩きながら待っていた。
そして、もうそろそろかなと思ったときである。また、ガガガと雑音が鳴った。
「タダイマ、列車ハ、二十分、遅レテ、オリマス」
え?さらに遅れてんのん?まあ、仕方ない、歩いて帰るより、もう十分、待った方が早いわな、ということで、さらに待つ。そして、もうそろそろかなと思ったとき…。
「ガガガ、ガガガ、タダイマ、列車ハ、三十分、遅レテ、オリマス」
え~!まだ来んのかいっ!
と怒っても仕方のないことである。無人駅だから文句を言える人もいない。
このあたりから、歩いて帰るのと、列車を待つのと、どっちが早いか、悩みだす。けれど、田舎の道は、恐ろしく暗い。闇なのだ。
以前、夜にお散歩をしていたとき、草むらから「ぐるぐる~」と、何者かわからない獣のうなり声が聞こえたことがあった。夜といっても、八時前なのだが…。
すっかり酔いも醒めて、不安な気持ちを抱えたまま、列車をひたすら待つ。そしてまた…。
「ガガガ、ガガガ、ガガガ、タダイマ、列車ハ、四十分、遅レテ、オリマス」
うわ~、どないなっとんねん!
何が驚くって、録音された遅延アナウンスが何度も何度も普通に流れるのである。つまり、これは日常のことなのだ。時刻表なんてクソ食らえだ。ここはホントに日本なのか?JRなのか?
その後、五十分のアナウンスを聞くことなく、無事に列車が到着し、なんとか帰宅できた。
あのアナウンスがいったい何分まで用意されてあるのか、ものすごく気になったが、世の中には知らなくてもいいこともあると自分に言い聞かせ、確認してはいない。
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