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ジョバンニになりたい
君の鞄には、いつも銀河鉄道の夜が忍んでいる。大好きなのだと君はいつも笑う。いつだったか君に影響されて僕も読んだが、いまいち内容を覚えていない。ただ、ジョバンニとカムパネルラの登場人物の名前だけは覚えている。なぜか耳に残っているのだ。
「他の本は読まないの?」
「読んでるよ。ただ銀河鉄道の夜だけはすぐ近くにいて欲しいんだ。僕にとっては大事なものだから」
ふうんと僕は鼻を鳴らす。少しだけ面白くない。今、一番近くにいるのは僕だと言うのに。
「どうしてそんなに大切なのさ?」
君は一瞬唇を噛んだが、すぐにその理由を教えてくれる。
「ジョバンニになりたいんだ……」
ジョバンニになりたい。ジョバンニは銀河鉄道の夜の主人公だ。だが、普通の少年であるし、ジョバンニになりたいとは銀河鉄道に乗りたいとかそういうことだろうか。
「どういうこと?」
不躾だと思うが聞いてみることにした。
「……大好きな人に出逢いたいんだ。それも一緒に銀河鉄道で旅してくれるような……」
そうかそうなんだ。そういうことなんだ。なら僕の言うことは決まっている。
「僕はカムパネルラになりたい」
君は目を丸くする。
「意味分かってるの? 僕のジョバンニになりたいに対する返答だよね?」
「そうだよ。そういうことだよ」
「もう……気になっちゃうじゃないか……」
「気にしなよ。僕はもう随分前から君が気になってるんだ」
僕は君の手を握る。
「ジョバンニになりなよ」
了
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