1.12 MERRY CHRISTMAS,my sons.

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1.12 MERRY CHRISTMAS,my sons.

 鉛の種をばら撒くことが存在意義の鈍色(にびいろ)の花の中、壮年の男は実に満足気な表情を浮かべていた。隣の青年が困惑していることも知らずに。 「これ以上、私の工場に居座るのであれば、かわいい子供たちが沢山死ぬことになります。サンタさんとしては、当然、子供を殺すわけにはいきませんよね?」 「やれ。……ヘロデシステム起動」  コリンの(おど)しにもかかわらず、エイトオーの口から出たのはゴーサイン。  するとトナ太郎以下トナカイフォース五名は一斉に左の(つの)を引き抜き、拳銃のように構えて先端をコリンに向けた。が、そのまま微動だにしない。 「んん? 何をしているのかな? そんな角でどうにかなるとでも?」 「コリンさん、あれは――」  ロクが何か言いかけたときだった。トナカイフォースの持つ(つの)が一斉に白く輝いたかと思えば、その光は線となり彼らを結ぶ五芒星を形作ったのだ。かと思えば、次の瞬間には警備ロボットが全てダウンしていたのである。 「くそ! 何が起こった!」  そんな悪態をつく前に、コリンにはやらなければならないことがあったはずだ。だが、予想外の事態に彼はそれを怠った。そう、エイトオーは先程の攻撃には一切参加していない。それは即ち、すぐに動けるということ。  コリンが気付いたときには既に手遅れ。重く、赤黒い、エイトオーの鋼鉄製の左拳が鳩尾(みぞおち)に叩き込まれ、前のめりに崩れ落ちた。 「まったく、お人形さんを使って子供を人質にとるなんざあ、悪趣味にもほどがあるぜ。なあ、ロクよ?」  コリンが倒されれば、我に返ると踏んでいたのだが、ロクは悪意に満ちた目でエイトオーを睨み続けていた。 「……そうか、やり合わないと分からないか。じゃあ、気のすむまでやってやろうじゃないか!」 「抜かせ! 骨が折れないようにミルクでも飲んでろ! クソ(じじい)!」  殴り合いの予感にエイトオーの筋肉は膨張し、再び財団製のサンタジャケットを破裂させれば、察したトナ太郎たちは周囲の子供を巻き添えにするまいと、肩に脇にと抱えて必死に移動させる。そして準備万端となったところで、血の繋がりのない親子の喧嘩が始まった。  だが、それは喧嘩と呼べるようなものだったろうか。他のトナカイフォースが見守る中、お互い、足も動かさずにひたすらに殴り、ひたすらに殴られるだけ。これが彼らのいつもの喧嘩の流儀だった。そう、いつもの。 「どうしたぁ! そんなもんか!」 「そっちこそ足腰ガタガタなんだろ! 早く降参しろよ!」 「うるせぇ、クソガキ!」 「うるせえ、クソ(じじい)!」 「ごぅふ……、おはえしだ」 「げぇふ……、まだまひゃ」 「こえで……どうだ!」 「ふん! ききゅかよ!」  何度も何度も拳の応酬を続ければ、最早、何を言っているのかも怪しい状況。しかし、それでも倒れない。お互いに意地がある。親父としての意地と、遅い反抗期の子供の意地が。 「ハァ、ハァ、ハァ、そろ……そろ、降参しろよ」 「ハァ、……ハァ、ハァ、ふざけ……んなよ」  だが、とうとう精魂尽き果てたのか、二人同時に後ろに倒れ込んでしまった。それでもトナ太郎たちは腕組みをしたまま動かない。これもきっといつものことに違いない。 「はっはっはっはっはー」 「はっはっはっはー」  突如として発せられた大笑いに続き、二人は言葉を交わす。 「なんでえ、クソガキだと思ってたのに、随分と大きくなったじゃねえか」 「は! そっちこそ随分と老いぼれたんじゃないか」 「言うねえ。そんじゃ、ま、帰るぞ、ロク」 「……そうだな、帰ろう。どうせ(じじい)は足腰弱ってるだろうから、僕の肩を貸すよ」 「け! 言ってろ!」  二人揃ってゆっくりと上体を起こせば、エイトオーは優しい目で我が子に声をかけた。 「メリークリスマス」  一瞬、きょとんとしたロクだったが、すぐに幼子(おさなご)のように破顔する。 「メリークリスマス。ありがとうよ、サンタさん」  日付は十二月二四日、時刻は二二時。  彼らの仕事はこれからが本番だ。  mission1. complete
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