1.4 誰にでもできるサンタさんのお仕事です

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1.4 誰にでもできるサンタさんのお仕事です

 トナ太郎の予想通り、階段の頂上にも警備ロボットが配置され、侵入者たちの姿を認めるや、モーター音とともに銃撃を開始した。  だが、A班同様、オホシサマによる対策をしていたエイトオーたちの前には赤子も同然である。接近後、ロクの高出力スタンガンにより速やかに対象を沈黙させれば、それはただの資源ごみと変わらない。  事前の情報が正しければ、これで残るは社長のジョージ・クルードを捕まえるのみ。  従業員用の入口にあったものよりも少し値段が張りそうなドアを、トナ五郎が素早く解錠してなだれ込むも、社長室の灯りはなく、ざっと見渡す限りでは人影もない。  中は三つに区切られており、一つは現在彼らがいる大きな机と椅子、そして来客用のソファがある文字通りのよくある社長室。残る二つは寝室とユニットバスであった。 「おかしい。ここで寝泊まりしているはずだが……」  そのとき、トナ三郎から声が上がった。 「みんなこっちに来てくれ! 見つけたぜ!」 「本当か!?」  トナ三郎の声に誘われて社長室の机に近寄れば、なるほど確かに誰かの(うめ)き声が聞こえてくるではないか。 「親父、確認をお願いしやす」  トナ三郎に促されてエイトオーが机の下を覗き込むと、そこに在ったのは(おび)えて震える(あぶら)ぎった中年男。 「そこにいるのは誰だ! ここには()る物なんてないぞ! か、帰れ、帰ってくれ!」  暴力的な来訪者を強盗と勘違いしたのだろう。必死に声を出すが、物盗りではない彼らに届くことはない。  覗き込んだ姿勢のままエイトオーがぼそぼそと呟くと、エントツが強い光を放ち、机の下で縮こまる中年男を照らし出す。  再びぼそぼそ呟くや、今度は男を片腕一本で引きずり出し、胸倉を締め上げてその顔をエントツの前に(さら)した。  少しして照合完了の文字とともにエントツに表示されたのは、目の前の中年男のパーソナルデータだった。 「ジョージ・クルードさん、落ち着いてくれ。俺たちは強盗じゃない」 「(まぶ)しい! 助けてくれ!」 「やれやれ……。ライツ・オン!」  エイトオーがそう叫ぶと、腕組みをしてその場を取り囲んでいたトナ太郎たちの赤鼻が、(にわ)かに明るく周囲を照らし出した。それとほぼ同時に、エイトオーはエントツからの光の照射をストップする。  十分な(あか)りが点いたところでジョージの目に映るのは、白髪、白ヒゲの癖に立派な筋肉、それに鋭角なサングラスをかけたサンタ服の大男。少し視界をずらすと、これまた立派な筋肉に焦げ茶の迷彩服を(まと)い、赤鼻が眩しく光るファンシーなトナカイ頭を被った異形の集団。  どこからどう見ても異常者の集団に取り囲まれているとしか思えないのだが、ジョージは最早観念したのか、開き直ったのか、落ち着いた素振りで口を開く。 「それで、あんた方はなんの用があってこんな真似を?」 「ああ、簡単なことだ。お前さんの会社の『これであなたも大人の仲間入り☆ リアルおままごとセット』で怪我や火傷をしたり、家を失った人たちに賠償をして欲しい。それだけだ」 「ふざけるな! 裁判では我が社に責任なしと決まったんだ! 賠償する必要はない!」 「おいおいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃ! お前さんとこの商品で被害を受けた子供たちがいるっていうのに随分な言い草だなあぁぁぁ?」  エイトオーは怒りの感情を我慢しきれないのか、胸倉を掴む手に力が入っているのが傍目(はため)にもよく分かる。 「だ、誰が賠償するか! 我が社のおもちゃで怪我をするなんて世迷言(よまいごと)(はなは)だしい!」 「ほうぅぅぅ? 怪我をしたのが嘘だと?」 「そうだ! みんな噓つきだ! 金が欲しいだけなんだ!」 「じゃぁぁ、やってみるかぁ? トナ次郎、ブツを持ってこい」 「へい」  トナ次郎がエイトオーに差し出したのは、社長室の片隅にあった『これであなたも大人の仲間入り☆ リアルおままごとセット』。  そこから丁寧に包丁とガスコンロを抜き出す。革製のカバーから抜かれた包丁は小さいとはいえ、鈍い金属の光沢があるその刃は5センチほどもある。そしてガスコンロ。弱火であればほんのちょっと火が点く程度だが、強火では高さ一〇センチにも迫る火柱が上がるのだった。  明らかな欠陥商品である。ほとんどが樹脂やプラスチックで出来ているセットの中で、この二つだけ明らかに異質である。そもそも、これで値上げをして大儲けというのならばまだ分かるが、お値段は以前のままなのだ。売れば売るほど赤字になるのだ。ジョージ・クルードという男はバカなのではないだろうか。  さて、その二つの動作確認を見て怖気付いたのか、ジョージが折れた。 「わ、分かった。被害者への賠償に応じよう……」 「お、いいのか? まだお前さんの体で実験していないが?」 「いや、いい、やめてくれ。その代わりと言ってはなんだが、我が社の商品に欠陥があったなどという噂をばらまくのはやめてくれ。会社がやっていけないんだよ……」  それを聞いたエイトオーは瞬く間に顔を朱に染め、大声でがなり始めた。トナ太郎たちは半笑いで「やっちまったな」と諦めの表情になる。 「ああ!? 噂じゃねえよ! 事実なんだよ! お前の商品で怪我をした子供がいるんだよ! 火傷をした子供がいるんだよ! お前の商品で絶望した奴だっているんだ! お前のお客様は子供たちなんだろ! お前、子供に夢を売ってるんだろ!」  そこまで言うと怒り心頭に発したのか、エイトオーの筋肉が一気に膨れ上がり上着が弾ける。直後、怒声とともに怒りと鉄拳をジョージにぶつけた。 「こんのアホんだらああぁぁぁぁぁ!」  思いのこもった拳にジョージは血飛沫(ちしぶき)をまき散らしながら錐揉(きりも)みに回転して弾け飛び、「ぐぅ」という(うめ)き声とともに気絶した。 「はぁ、はぁ、……サンタの赤はなぁ、返り血の色なんだよぉ! クソがぁ!」
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