1.5 追加オーダー

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1.5 追加オーダー

「はいはいはいはい。イマジナリーアームズの皆さぁーん、お疲れ様でしたー」  エイトオーたち以外、誰もいないはずの社長室に突如響く拍手と合成音声。声のした方をみると、いつのまにかサンタのお面を被ったスーツ姿の男がいるではないか。 「ち、モミの木か。現れるのが遅かったんじゃないか?」  エイトオーにモミの木と呼ばれたこの男。当然、本名ではない。  財団所属のサンタが裏の仕事を終えた際、必要があれば登場する部署の名称だ。  目撃情報の揉み消しに記憶の改竄(かいざん)、巻き添えを食った住民との交渉などが主な業務である。彼らは決まって深緑色に白のピンストライプの上下、黄緑色のシャツと深緑色のネクタイ、それとサンタのお面を身に着けている。  これまでも何人かエイトオーの前に姿を見せたことがあるが、同じ財団に所属しているというのに顔も年齢も、実のところ性別すらも分からない。 「いやー、エイトオーさんがお怒りでしたので、つい二の足を踏んでしまいまして」  怯えた振りをしているが、声も変えられ表情も見えない状況では、彼の本意は彼にしか分からないだろう。 「は、嘘つけよ。……で、こいつはどうすんだ?」 「それはこちらで処理しますのでご安心下さい」 「()()、ね」 「ご興味がおありで?」 「いいや、まっぴらご免だね。聞きたくもない」  そう言ってエイトオーが首を傾げながら大袈裟に身震いすると、緑スーツはわざとらしく思い出したように話し始める。 「それは残念。あ、そうそう。新しい情報が入ったみたいですよ。帰りに寄ってみては?」 「け、お前からなのは気に入らないが、言う通りにしてやるよ」 「おやおや、これは随分と嫌われてしまいましたねえ」  肩を(すく)めておどけて見せるも、そろそろ頃合いとみたモミの木が「それではまたいずれ。御機嫌よう」と(うやうや)しく頭を下げ、気絶したままのジョージ・クルードを軽々と(かつ)ぎ上げて去って行った。 「……親父、いけ好かねえ野郎でしたね」 「気にすんな。あれでも俺たちのために働いてくれてるんだ。そんなことより、俺たちも撤収だ。チャーリーで呑むぞ!」 「たくさん吞んでいいっスか?」 「おう、呑め呑め、好きなだけ吞め」 「ヒャッハー!」  *  *  * 「お帰りなさい、イマジナリーアームズ。早速ですが、次のオーダーです」  チャーリーの店内にはエイトオーたちの他は誰もおらず、マスターは遠慮なく裏の名前で話しかけるも、休息が取れると思っていた矢先のオーダーには憎まれ口も出ようというもの。 「おいおい、終わらせて帰って来たばかりだってのによ。相変わらず人使いが荒いもんだ」  そんな声もさらりと受け流してマスターが口の奥からカチカチと二回音を立てれば、いつも通りエントツに情報が表示され、否応もなくエイトオーの目に新しいオーダーとやらが飛び込んできてしまう。 『 【オーダー】 ★子供の行方不明事件について有力な情報を入手。  夢遊病のように出歩き、両親に二度連れ戻された子供の事例が報告された。  (くだん)の子供を尾行し、顛末(てんまつ)を報告せよ。  当該、子供の家は……            』 「こいつは……感心しないな」  エイトオーがぼそりと呟くがマスターは聞こえぬふり。あくまでもエイトオーの独り言、そういうことなのだ。 「だが、面白くはなってきた。マスター、バーボンを頼む。いつものだ」  エイトオーはニヤリと(わら)うと、暗銀のオイルライターで葉巻に火を点けた。
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