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(いやはや、ああいう直球坊やが一番危険なんだよなぁ)
そう、このチャイナドレスの東欧モデル風美人の正体は、なんと綾瀬塔矢であった。
山形の別荘でもそうだったが、実は、綾瀬は密かに陽太を牽制していた。
佐々木に気付かれぬようその背中へ手を回して、こちらを見つめる背後の人物に対し『実はめちゃくちゃ仲のいいカップル』を装い、敢えてそれを見せ付けていたのである。
今回は上手いことそれが通じ、どうやら陽太は、やっと佐々木を諦めたようだ……。
(オレにしては珍しいな。どうやらあの坊やに妬いちまったらしい)
こんな感情、長く味わってなかったので食中りしそうだ。
レベッカから聞こえてくる賑やかな喧騒に背を向けながら、綾瀬はフゥと溜め息をついた。
そして佐々木の肩から手を離すと、頭上で腕を組み大きく伸びをする。
「あーあ、肩が凝った! それに、早く顔を洗いたいねぇ」
言いながら、ハンドバックから早速タバコを取り出す綾瀬である。
そんな様子を見遣りながら、佐々木は残念そうに口を尖らす。
「そうすっと、すっかりいつものおっさんに戻りますね。でも何か、すげー綺麗に仕上がってるのに勿体ないです」
「そうかい?」
「店は忙しそうでしたが、上がって良かったんですか?」
「ああ。今日はオープニングの一時間だけって事だったからね。お前もいいのか?」
「陽太も父親とバッティングしちゃったから、今日は解散って言ったんでしょ? 所長がオレに、そう伝言したんじゃないですか」
「そう! そうそう、そうだった」
勿論それは噓であるが、どうやら本当の事に変わったらしいので問題ないだろう。
コホンと咳払いしながらタバコを銜えると、佐々木が訝しむように訊いてきた。
「ところでレベッカのヘルプ、今日はなんでそんな気合の入った女装だったんですか? オレ、店内に入って滅茶苦茶驚きましたよ」
「ははは、たまにはね。本当はオレもソコソコ美形なんだよって、知ってもらいたかったからかな」
「え? 誰にです?」
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