chapter 4 フェイクな花嫁

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「さすがにご自分の結婚式を わが社の新しい韓国とのブライダル事業プロモ―ションに使うとは思いもしませんでしたよ 」 もう一人副社長が大きなおなかを揺らして 大和の隣に来て嬉しそうに言った 黒の燕尾服がどこかお笑い芸人を思い出させる 「一石二鳥だろ?」 大和は陽気に言って見せた 「花嫁さんは納得されているんですか?」 と真田 「このウエディングプロモーション会社はすべて 今年からわが社の傘下に入る 日本に進出したがっている韓国のブライダル事業部の 「ミラージュ」に任せてあるんだ 」 「彼らの徹底した仕事ぶりはお見事ですな」 「だから少し韓国式だからややこしいですね 彼らのウエディングコーディネーターの話によると お式の前に花嫁を見ると悪運を呼び込むそうですよ」 「どいつもこいつも迷信が好きだな」 大和はため息をついた そうなのだだから今の大和は少し機嫌が悪い 朝から杏奈の姿を見るのを禁じられているのも その原因のひとつだ 今朝から杏奈の姿はちらりとも見せてもらえず 彼女は今どんな気分でいるのか ゆうべはよく眠れたのか 何か必要なものはないかとかいろいろと声かけを したかったのに 二人は大和の気持ちなども知らず 大和を挟んで軽いおしゃべりをつづける 「今は花嫁さんはミラージュに任せておきましょう」 「彼女はもうすぐあなたのものになるんですからね」 「初夜の時は窓を開けてはいけないらしいですよ 縁起が悪いそうですから 」 副社長はニヤリとして言った 「どうしてみんな結婚式にはそんなに迷信深くなるんだ? 今は20世紀だよ」 大和がそっけなく言った 「いつの時代も結婚には受精力と繁殖力に まつわる迷信が付きまとうんですよ 」 「ねぇ!じゅせいりょくって何?」 副社長の小さな子供が彼のスーツの裾を 引っ張って質問する 「お母さんの所に行ってなさい」 父親の副社長が眉間にしわを寄せて言う 大和がしゃがんで副社長の息子と目線を合わして 頭を撫でて言った 可愛らしい半ズボンのスーツに おそらく母親にやられたのであろう 髪を七三分けにぴっちり分けられている 「君の結婚式の時に教えるよ 」 大和が副社長の子供を親し気にからかう 息子は眉をしかめて母親の所に戻って行った 「今の妻とは再婚でしてね、あの子は私が 歳をとってからの子で本当にかわいくて仕方がないんですよ」 「初めて聞きますね」 大和が興味深げに副社長の身の上話を聞く 「最初は妻は若くてこんな妻に先立たれた おいぼれの所に嫁に来るなんて 妻が可哀そうだと思っていたんですがね しかし彼女は私に尽くしてくれました 心を捧げられる人が人生で再び現れるなんて 思ってもみなかったんですよ  」 少し前ならこんなことを社員に言われたら 大和は鼻を鳴らしてからかう所だが 今日はなぜだか気がつくと柄にもなく謙虚な 気持ちで彼の言葉を聞いていた 副社長は温かな輝きを放った瞳で大和に助言した 「ご結婚おめでとうございます社長 最大の財産は良妻ですぞ」
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