chapter 4 フェイクな花嫁

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恐る恐るヒールに足をいれると たしかに重いが歩けないほどではなく これならゆっくりとなら綺麗に歩けるだろうと思った 今は大勢の人にかしずかれる身分になっている 何もかも自分でやってきたこれまでの 生活を考えると杏奈はとても戸惑った ミラージュのスタッフはこぞって こんな綺麗な花嫁は見たことがないと褒めたたえたが 杏奈はなんだかだんだん時間が経つにつれ 自分が馬鹿みたいに思えてきた   自分の結婚式なのに・・・・・ ドレスも選べない花嫁・・・・・・ たしかに美しい希望と無垢を象徴する 花嫁衣裳を身にまとって 花とヴエールで飾り立てているけれど 現実には中身がそのどちらもついて行っていない 一瞬このドレスを脱ぎ捨てて 一目散に逃げだしたくなった 時間は刻々と過ぎて行く もうすぐ祭壇へ向かう時間だ 「ご家族様がお見えでございます」 ミラージュのスタッフが一人ドアを開けると 杏奈の家族がぞろぞろ入って来た 「わぁ~~~!お姉ちゃん!綺麗!! 」 可愛らしい花柄の振袖を着た佐奈が杏奈を 見るなり顔を輝かせた 「ああ・・・・杏奈・・・すごく綺麗だわ」 その後ろから母美佐江が美しい 鶴の柄の黒留袖で入って来た 母は鼻をすすり感情移入のレッドゾーンに 突入しようとしていた 「式はまだ始まっていないわよ」 「結婚式に母親の涙はつきものよ」 ミラージュスタッフは杏奈と家族のやり取りを 気配を消して部屋の隅で見守っていた 父登がタキシード姿の正装で 佐奈達の後ろからやってきた 杏奈と共にバージンロードを歩き 杏奈を大和に引き渡すという大役から 夕べから緊張しっぱなしだ 「う・・・ちょっと・・・トイレ」 「もう・・・またぁ~?」 佐奈が父を見て笑いながら言った 「お父さん朝から緊張で ずっと空嘔吐きしているのよ・・・ 式が終わるまで持つかしら?」 「外の様子はどう?」 「もうすっごい人だよ!! あんなに大勢の人見たことないよ! みんな大和さんとお姉ちゃんを見ようと集まってるよ」 「緊張するような事言わないで 」 杏奈は途端に冷汗が出て顔を歪めた すると隅っこに控えていたミラージュスタッフが 何やらワイヤレスマイクに囁いた するとどこからともなく素早く メイクスタッフチームが現れて杏奈のおでこの テカりをパフで抑えてまたどこかに消えた 「え~と・・・ 」 そのあまりの素早い行動に 佐奈も母もみんな驚いて何も言えなくなった そこへそっとドアが開いた 入って来たのはカンナだった カンナの姿を捉えた瞬間 杏奈の体に嫌な緊張が走った
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