chapter 4 フェイクな花嫁

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袖がシースルーになった 黒のボディコンシャスのワンピースに 同じ黒の鳥籠ベールを付け 艶やかな茶色の巻き毛は背中まで垂れて輝いている 今でもほっそりとしていていかにもカンナらしく 寸分の狂いもなく華やかで美しかった 久しぶりに見る妹の姿に杏奈は複雑な思いだった カンナが香水をプンプン匂わせ 杏奈に近寄って来た あれから数週間経って 杏奈は彼女が姉に対してした裏切りを 今では後悔しているのかどうかも分からなかったし まだ正人と交際を続けているのかもわからなかった しかし血縁者のカンナを自分の結婚式に 呼ばないという選択肢も家族の中ではなかった 杏奈はここでやはり長女の役割として カンナに声をかけた 「久しぶり・・・・来てくれたのねカンナ・・」 するとカンナは自然なのか演技なのか 目に涙をためて杏奈に近寄った 「姉さん・・・ごめんなさい・・・」 途端に緊張していた杏奈の心はほぐれた ああ・・・・よかった・・・・ カンナは反省している・・・ 杏奈も心が切なくなり目に涙をためた カンナのその一言で 何もかも水に流せるような気がした 本当にカンナと正人は赤い糸で結ばれていて 二人は心から愛し合っているのかもしれない たまたま彼と先に知り合ったのが 自分だっただけならもうとやかく言う必要もない 久しぶりに姉妹は見つめ合った 幼い頃からこの顔を見て育ってきた ああ・・・・やっぱり私は 心からカンナを憎むことは出来ないわ・・・ 杏奈は妹に向かって微笑んだ カンナは目に涙を貯めながら杏奈の顔色を伺っている  幼い頃から見覚えがあるその顔はお姉ちゃんが 怒っているかどうか様子を伺っている顔だ 「もういいわよ・・・・ 」   ヒック・・・ 「でも・・・あたし・・・・ 」 「もういいったら・・・・・ 」 杏奈はカンナの言葉を遮った きっと自分に対しての謝罪だろうけど 今は部屋の隅でミラージュのスタッフが目を光らせている あまり余計な事はしゃべってほしくない その隣で母も涙を流して 「よかったわ・・・・」 と喜んでいる そう 良かったのだ・・・・ これで・・・・ 「ねぇ!みんなで写真撮ろうよ!」 佐奈が晴れ着の裾をゴソゴソして 自分のスマートフォンを取り出した するとすかさずミラージュのスタッフが ささっと杏奈達の前に来て言った 「恐れ入りますが 花嫁様控室での撮影は禁止されています」 「ええ~??なんでぇ~~~?? インスタに載せたいのに~」 途端に佐奈が困惑気味に言う 「規則でございます」 スタッフはきっぱり言った 「あ~・・・ あとで写真なんかいっぱい撮る時間 あるから言う通りにしてくれる?」 杏奈は苦笑いをして言った 今や彼女達の徹底したプロ意識に杏奈は 敬意を覚えていた 「お式が始まりますので ご家族様は式の親族席にお向かい下さいませ 花嫁様は私共にお任せください」 「姉さん・・・・とても綺麗だわ・・ その・・結婚おめでとう 」 「ありがとう 」 再び杏奈はカンナと見つめ合った それから杏奈の家族はミラージュスタッフに 睨まれながら花嫁控室を後にした
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