chapter 4 フェイクな花嫁

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「お飲み物をお持ちしましょうか? お嫁様・・・   」 「いいえ・・・何も要りません」 「それではまもなくお式が始まります 私共がお迎えに上がりますので それまでお一人でお心を静める お時間をお取りくださいませ 」 花嫁控室に一人残された杏奈は 美しいドレスを手でならした しわにならないように目いっぱい裾を広げた ドレスの海の中に折りたたみ椅子を入れられて 腰かけているので誰かが来て この椅子を取り除いてくれないと 杏奈は身動きがとれない もうカンナに嫉妬の感情は涌かなかった なのに今は心が沈んでいる 今は嫉妬や未練というより 自分のどこが悪かったのだろうと 水で薄めた墨汁のように心にシミが広がった 渦巻いていた感情が悲しみと戸惑いに 分離し始めた じきに式典開始の11時になろうとしてたけど まだ全身の自分の姿を鏡でじっくり見ていなかった 見るのが怖かった 鏡の中にいるのが見知らぬ女性だったら もしもみんなの期待に応えられなかったら―? そして意を決して杏奈は立ち上がり 目の前の全身姿鏡をのぞいた 鏡を見ると・・・・ 圧倒的な韓国メイクの技術で 美しいのだけど目鼻立ちをすっかり 変えられてしまった自分の顔があった あなたは誰? .:*゚:.。: 鏡の中の自分へ問いかけた 今日・・・・・ 私は・・・・ 愛してもいない人に神の前で永遠の愛を誓う・・・・ 胸の内で後悔の念と悲観とが入り交り 馴染みのない苦々しい感情へと変化していく 25歳・・・・・ 子供の頃から誰よりも早く大人に ならなければいけなかったような気がする 今の私の人生はどの瞬間も映画みたいだ 本当にこれで正しいの?・・・ .:*゚:.。: .:*゚:.。: ガチャンと観音開きの花嫁控室の 扉が開いた ミラージュのスタッフが一列になって 杏奈にお辞儀をした 「お時間が参りました 花嫁様」 もう後戻りはできない・・・・・ 杏奈は硬く目を閉じた
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