chapter 4 フェイクな花嫁

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式場入り口に父が緊張気味に立って 杏奈を待っていた おそらくミラージュにやられたのであろう 髪に金粉がふりかかり胸ポケットには ユリのコサージュが刺さっている 父は真っ赤になってフルフル震えていたが 厳かに腕を差し出し 杏奈と並んで入り口前に立った 杏奈が動くたびに長い長いベールの向きを 変えるためにミラージュのスタッフが 後ろで色々動いている ハンドベルの爽快な音と共に 式場の天井まである大きな両扉が全開になった 一斉に招待客と目の前で何十人も待ち構えている 報道陣とカメラの眩しいライトが 杏奈の目に飛び込んできた ココは何処? .:*゚:.。: 胸が痛い程の不安に襲われ 一瞬パニックになりかけた時 ミラージュスタッフが後ろから杏奈に囁いた ボソッ・・・ 「右へ一歩、左へ一歩ずつ・・・海運王の待つ 祭壇までお進みくださいませ」 杏奈の脈が速くなる どうして私だけがこんなに違う時空の中に 一人いる気分なんだろう・・・・ .:*゚:.。: .:*゚:.。: 杏奈はバージンロードへ一歩足を踏み出した ・・・・・・・ ザワッ・・・ 「綺麗だわっ!」 「ヤバ―イ 」 式場の招待客はそれぞれ小声で 杏奈の美しさを口々に讃えていた 杏奈と一緒に働いてた 第一秘書課サポートチームの面々も 招待席から美しい杏奈が祭壇前に向かうのを 見守っていた とりわけ後輩秘書のくるみは今はドレスと 同じピンクのハンカチを握りしめて号泣していた 「くるみせんぱ~い そんなに泣いてよっぽど感動したんですね~」 他の秘書達がくるみを励ます    グス・・・ッ 「感動して泣いてるんじゃないわよ」 「じゃぁ 何で泣いてるんですかぁ~?」 クルミはそっとハンカチで涙を拭いて言った 「別に・・・ただ・・お可哀そうで・・・」 .:*゚:.。: 祭壇前の彼はまばゆいばかりの姿だった 白とグレーで決めた花婿はエレガントで ありながらも男性の色気を発散させている 彼は他の服と同様ごく自然に正装を着こなし リラックスして自意識過剰な所はみじんも感じられない 素敵な男性を目の前にしているのに どうしてこうもこの状況を外から眺めているような 気分にさせられるのだろう 彼は杏奈を下から上まで舐めるように見回し そしてほのかに笑みをうかべた この人は誰? .:*゚:.。:   杏奈の冷たい手に重ねられた彼の手は温かく 司祭が彼に結婚指輪を渡し 彼がそれを杏奈の指にしっかりとはめる 「誓いの口づけを」 司祭の言葉の後 まるで世界が数分止まったかのように あたりは沈黙につつまれた 杏奈は顔を上げて目を閉じた 左の目から美しい涙が一滴流れた この罪はどれほど重いの? .:*゚:.。: .:*゚:.。: 大和はしばらくその涙をじっと見つめていたが やがて彼は身をかがめ触れるか触れないかのキスをした 礼拝堂の天井から鐘が鳴り響き 外には鳩の大群が空高く飛んだ 報道陣のフラッシュで杏奈達は 真っ白いシルエットになった その日・・・・・ 海運王の結婚はyahooニュースのトップに躍り出た
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