chapter 4 フェイクな花嫁

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そうこうしていうちに花嫁のお色直しで 大和と杏奈はクラシカルなウエディング音楽と共に 一旦会場を後にすることになった プロのアナウンサーの誘導の元 ドライアイスとレーザービームに包まれて 退場口に立って二人で深々と招待客にお辞儀をした 宴会場の扉が閉じられロビーには別世界のような 束の間の静寂に包まれた 大和はホッとした これで杏奈と少し話しが出来る なにせ披露宴も中盤に差し掛かっているのに 今朝から彼女とは一言も会話らしいものが出来なかったのだから 「杏奈さん・・・・・  」 大和は隣に佇んでいる杏奈に向き直った すると驚いたことに杏奈がむんずと ドレスの裾を思いっきり掴んで持ち上げ 自分の履いている厚底ヒールを宙高く蹴り上げた は? 大和の目が点になっているうちに すかさずミラージュのスタッフが宙に飛んで そのヒールを両方ともキャッチする いつの間にか杏奈のドレスのスカートは 4人のスタイリスト班に持ち上げられ ふくらはぎまでの杏奈の裸足の脚が現れた 「裾は慎重に扱って!」 「いい?呼吸を合わせて!」 「せーの! 」 自分もスカートの裾をスタッフ達と一緒に 持ち上げて 杏奈がくるりと大和の方に厳しい顔を向けて言った 「それじゃ!大和さん! 20分後に!失礼しますっっ」 「走ります!」 「走ります!」 「走ります!」 今や数人に持ち上げられているスカートと ベールのせいで大きな布の塊と化した杏奈は ミラージュのスタッフと 共に全速力で風の様に去って行った 大和は何も言えず 呆然と彼女達の背中を見送った
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