chapter 1 血の繋がり

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秘書課のドアを気を付けて そっと両手で開けてそっと閉める 決してこのドアはバタンと閉めてはいけない 社員1000人を抱える 「ディアマンテ国際海運株式会社」の 代表取締役社長「安部大和」はそういう 粗野な仕草を許す男ではない 社長秘書になって3年、主任となって1年の杏奈は十分理解し、新人秘書に一番最初に教えるのも そういう粗野な仕草をしないことだ 彼は祖父の代からの海運業を引きついだ後 貨物業だけではなく客船業など 彼の代で確実に世界事業に拡大し「西の海運王」と呼ばれるようになった ワンマン社長は自分の会社について 完全かつ確実な知識と 絶対的な権力を持っている それ故に長年秘書として彼を 観察してきた杏奈から見た彼は 有能すぎて部下の誰にも信頼して仕事を任せることが出来ない性格だという分析を独自でしていた それは彼に対してどれほどの 重役社員でもどれだけ建設的な意見だとしても 異をとなえるにはそれだけの覚悟が必要なことと 少なくともこの会社の第一線で誰よりも近くにいて秘書を務める杏奈は重々承知していた しかし完璧な彼にも一つの悪癖があった 杏奈は社長室に入った時 彼のご機嫌が特に悪いかどうかを知ろうとして こっそり彼の顔色を伺った いつもの日課だ 「西の海運王」と呼ばれている 安部大和(あべやまと)社長のオフィスから太平洋を見渡す全面窓は 秘書課とは比べ物にならないほどそれはみごとで 毎回社長オフィスに一歩入るたびに感銘を受ける 今その社長は顔をしかめてブツブツ言い 素晴らしい見晴らしの海をバックに立ったまま 長身を折り曲げてデスクの上の乱雑された 書類をかき回していた 杏奈は目を細めてその光景を見ていた     彼は背は高いがひょろひょろしているのではなく 肩幅ががっしり広く、ウエストからヒップにかけて 引き締まり、手の指は形よく長く繊細だ ダークグレーのブランドスーツは 長身で力強い体のあらゆる角度や線が 引き立つように仕立てられている ・・・・今日はアルマーニ―・・・・ 杏奈は心の中でつぶやいた さらにクリーム色のピンストライプのシャツは ロイヤルブルーのネクタイにピッタリだ いつもながら着こなしにセンスを感じる オフィス一面の窓から見渡せる大海原が 彼を引き立たせる文句なしの背景となっている 相変わらずゴージャスだ、彼も眺めも しかしその権威と男前度も 今は彼のお得意の癇癪が前面に出ていて台無しであった
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