chapter 4 フェイクな花嫁

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新婚旅行もかねて二人は披露宴が終わると 式場のすぐそばの港に今はゆったりと停泊している 豪華客船「クイーンマリーナ号」で 大和の生まれ育った島根の南端の島で 日本のスイスと言われている與邦国島へ向かう 豪華客船「クイーンマリーナ号」は 韓国経由で5日間のすばらしい船の旅を提供し そしてこれもディアマンテ海運の新事業豪華客船業のプロモーションの一角だった 披露宴を済ませた二人は 上甲板の乗下船用タラップを渡り優雅に 波間に佇んでいるクイーンマリーナ号に乗り込んだ オープンされている客船内を自由に内観した人々は 誰もが映画の様な豪華客船の内部の豪華さに驚いた そしてこの豪華客船業がこれから ディアマンテ海運に金塊を生み出せてくれることも 他の誰が見ても明らかだった 今二人は大阪港の埠頭に横付けになっている マリーナ号のプロムナートデッキに出て 出航する船客を見送る大勢の人に手を振っていた 客船と港にかけ渡された カラフルなテープの情景をミラージュの カメラクルーが絶え間なく撮影している 杏奈の手には何十本ものカラフルな 紙テープが握られ それが港にいる家族やディアマンテの 社員と繋がっていた その端でミラージュスタッフが円陣を組んで 「私たちはやりきった」と号泣していた その光景をみて杏奈ももらい泣きをした 「もうすぐ出航だよ 」 横にいる大和が同じく手を振りながらそう 杏奈に告げた その声は柔らかく遠くを見つめるその瞳は もう彼の言う故郷へ心が飛んでいるようだった 港の真ん中には同じようにテープを 持っている杏奈の家族もいた 佐奈がピョンピョン跳ねて聞こえないのに 何やら杏奈に叫んでいる 母たちも杏奈に手を振っている ふと彼が杏奈の肩に腕を回した その行為が演技かどうかよくわからなかったが 疲れからか思わず杏奈も彼の肩に頭を寄せてしまった 疲労がピークに達している杏奈にとって 大きな温かい頑丈な体にもたれているのは この上なく心地よかった しばらく彼は杏奈を抱いている腕を強くしめつけ 次第に遠ざかって行く陸地をしばらく見つめていた 眼下に広がる海面はあたかもいままでの生活と 新しい生活の区切りをつけているようだった 杏奈はこの新しい生活もほんのしばらくの間に過ぎず やがてはまたこの海を渡ってもとの生活に 戻らなければならないことをぼんやりと考えていた 「疲れただろう? 僕達の船室を案内するよ 」 彼は言った 「おいで 」
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