chapter 4 フェイクな花嫁

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・・・・・・・・・・・・・・・ 「どうして大和さんがうちに来た時 呼んでくれなかったの?」 杏奈達を乗せた船を見送るために家族で 港に出向いて来た時 カンナは母にむくれて言った 「呼ぶわけないでしょう! あなたお姉ちゃんにどれだけ酷い事をしたか忘れたの?」 母はカンナに即座に答えた 「やっと幸せを掴んだのよ お姉ちゃんの幸せを邪魔するようだったら 今後一切あなたには経済的援助はしませんからね 月の仕送りもないものと思ってちょうだい」 「実の娘が可愛いくないの?」 母はカンナの言葉を遮った 「それとこれとは違います お姉ちゃんが許してくれたからよかったものの あなたのせいでみんなが辛い思いをしたのよ 今のあなたはお姉ちゃんの不幸の上に自分の幸せを 築こうとしているじゃない 正人君との交際なんて認められるわけないでしょう あなたもお姉ちゃんの様に早く落ち着いてちょうだい いい年した女の子がボーイフレンドをとっかえひっかえなんて お母さん恥ずかしいったらないわ」 そうカンナを睨んだ母の目は 「大和さんはちょっかいをかけてはダメよ!」 と語っていた カンナは驚愕していた 数少ないアナウンサーの仕事を失ったこともあり ここで何か手を打たなければと色々考えていた矢先だ 事務所のマネージャーから連絡が来て カンナが務めるニュース番組の視聴率が あまりにも低いため番組を打ち切るという話だった それは突然の中止ですでにその枠は来週から クイズ番組に変わっていた 事務所側は動画配信番組へ 自分を売り込んでくれるという話だが それが決まるまで仕事は無く 僅かな貯金と親の援助で食いつながなくてはならなかった ここへきてカンナは酷いショックを受けていた よりによってあの杏奈があんな素晴らしい男と 結婚するなんて 今も船の甲板に立ち杏奈を守るように立っている 逞しい男性を見つめる すっきりと背が高く しかも鋼鉄のように強靭そのものだ 彫りの深い顔は端正で少し冷酷で近寄りがたそうな 雰囲気を醸し出してはいるが きっとベッドでは激しい情熱を内に秘めているのだろうと想像力を駆り立てられる またそれも女性にとってはたまらなく魅力的だ 新妻を見下ろす黒い瞳は深みのある微笑みを浮かべている 「ねぇ見て!杏奈姉ちゃんの服! 全身シャネルよ!」 佐奈がピョンピョン跳ねて杏奈に手を振りながら 言った 「大和さんのプレゼントよ! 新婚旅行で着てほしいって家に届いたのよ スーツだけじゃないわ靴からカバンから アクセサリーまでひと財産はするわよ!」 母はその時を思い出しているのだろう ほうっと熱いため息をついた カンナはそれを愕然な思いで聞いていた 今自分の横にいる母は一歳年上の 姉をそれは誇らしそうに見つめて手を振っている   母が姉をいつもこの表情で見つめている時 カンナの中で黒い蛇が頭をもたげる
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