chapter 4 フェイクな花嫁

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いつだって母は杏奈が自慢だった ピアノの発表会や学校の授業参観など 自分の参観は用事で来れない時でも 杏奈の時は皆勤賞だった 姉は頭脳明晰で行儀も良く 「大和撫子の鏡の様なお嬢さんね」と 近所の人は姉を口々にそう言った それに比べてカンナは低能扱いだ しかしこれにはカンナの意見の方が正しかった 自分は低能ではない力を出し切らなかっただけだ 幼い頃に病気をしたせいで家族みんなに あれもこれも禁止された 口癖はこうだ 「どうせカンナは出来ないでしょ」 カンナにしては当然のことだった 誰もかれもカンナの世話を焼いて 何一つ満足に自分でやらせてもらえなかった いつだって母は姉を自慢にし大切にしているのに 自分は腫れ物に触るようにぞんざいに扱われる 杏奈があの人の妻・・・・・ それに比べて正人など 自分の恋の相手にしては最低の男だった 暇つぶしに姉から奪ってやって 正人が自分に靡いてきたときは気分が良かったが なんてったって正人はつまらない男だった 簡単に正人を捨てて手を切ろうと思えば切れるのだが それでは家族や両親に自分の本性がどういう 女なのかバレてしまう それでは両親が自分を構ってくれなくなり 金銭的な援助も受けられなくなる それでは困る カンナからしたら自分の家族に対しても たいして親愛の情など抱いていなかった   そしてたった今気づいた 自分はあの海運王のような ああいう男と結婚したかったのだ 富、地位、そしてあの体格、人を惹きつけずには おかない魅力の持ち主だ カンナが人生で出会ってきた中でも最高級の男 まさに自分の虚栄心を満足させてくれるのはああいう男だ 驚きと同時にカンナは羨望を感じていた 彼はとんでもない富豪ではないか 望むものは彼に頼めば何でも手に入る 式の間カンナは羨望と嫉妬を隠すのに 自分の奥歯をキツク噛みしめなければいけなかった あまりにも強くくいしばっていたので 式が終わると顎がズキズキ痛んだ
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