chapter 4 フェイクな花嫁

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式が始まる前に初めて大和と言葉を交わした ほんの二言三言だったが 花婿の礼服を粋に着こなした彼は ため息が出るほど惚れぼれする良い男だった 背が低い杏奈がウエディングドレスの下には 15センチのヒールを履いているので 今日は彼の横に立つととても見栄えが良い気がした 杏奈を覗いた他の家族全員は式場が用意した ホテルで一泊宿泊するらしく このホテルは温泉やエステゴルフコースも充実している すべてのアミューズメントを満喫すると佐奈は息巻いていた   もちろん費用は全額大和持ちだ 家族全員がウキウキと幸せそうだった 姉は小さい頃から優秀で女学校を出た後 あの海運王の秘書として見事玉の輿にのり 女性として一番良い形で出世し 家族に幸福をもたらした 母は幼いころから長女の杏奈を大和撫子に 育て上げ見事玉の輿に乗せた母親として 女としての自分の責務をやり切った満足感で 顔を輝かせている しかし杏奈だって隅に置けない 正人と婚約していたのに 正人が自分に靡いたら風の様な速さで 海運王と結婚してしまった いったいどんな手を使ったのだろう そんな浮かれた家族を置いて カンナは一人実家に帰った 玄関からリビングに行かず すぐに二階に上がって行った 行先は決まっていた 幼いころのように足音を立てず あの頃から入室を禁止された姉の部屋に忍び込んだ もう何百回も忍び込んでいるのでお手のものだ 姉の部屋の中央に立って室内を見渡した 姉は几帳面な性格上大切なものなどは 綺麗に整頓してしまっている お気に入りの本 クローゼットには秘書らしい洋服 本人にだけ価値のある宝物で溢れていた カンナはあるものを探した あったわ・・・・ クローゼットの中にあった 小さな箱を取り出しそっとあけた
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