chapter 4 フェイクな花嫁

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それは姉が小さな頃から大切にしていた ビンテージ物のシルバニアファミリーの うさぎのお母さんの人形だった   杏奈がそれはそれは特別に可愛がっていた人形で 今は薄汚れているが 「ミミ母さん」と言って杏奈は友達扱いし 何がなんでもカンナには絶対触らせなかった どうしてやるかもう決めてあった 本当は「ミミ母さん」をバラバラにしてベットに ばらまいてやりたかったが それはまずいと小ずるい計算が働いた だってそんなことをするのは家族では カンナだけだからだ 誰の仕業かすぐにばれてしまう だから姉の大切にしている人形を盗んだ それなら姉がうっかりして失くしてしまったものと 自分がシラを切ればいいだけだ しかし盗むだけでは気持ちが収まらなかった それでは嫉妬心を満足させられなかった    誰にもわからなくてもいいから 杏奈の愛するなにかを破壊してやらなければ 自分のアパートに持って帰ってカンナは ニタリとして引き出しの一番左から カッターを取り出し チキチキと刃を目いっぱい出した そしてまずは「ミミ母さん」の両耳を切り落とした それから淡々と・・・ だが容赦なく人形を切り刻んだ 杏奈には自分のやったことがわからない 子供の頃から大切にしてた 「ミミ母さん」を失くしたと騒ぐかもしれないが 誰もカンナのせいには出来ない これは自分だけの秘密 誰にも分らない事を自分だけが知っている カンナは優越感にほくそ笑んだ 正人を姉から取り上げただけでは飽きたらない 正人など杏奈にくれてやればいい そうだ元々は杏奈の物だったのだから返してやろう そして自分こそあの海運王安部大和の 正妻にふさわしい カンナは第二の獲物を狙って 心の中で貧欲な赤い爪を研いだ
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