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予想はしていたものの二人の船室はまさに
海の上の邸宅そのものだった
現実にこのような贅沢な船室があるとは今まで
平凡な生活をしていた杏奈にとって未知の世界だった
広々とした私用のラウンジがあり
その奥の二つの部屋に通じるドアがあった
化粧室を備える広々とした寝室にその横には
船の上なのに水も湯もふんだんに出る
金の猫足バスタブの浴室があった
美しい頑丈な窓からはどこまでも青い海が
広がっていた
そして杏奈の目に飛び込んできたのは
存在感をあらわにしたクイーンサイズのベッドだった
杏奈は思わず身を固くして
胸の高鳴りを抑えようとした
「心配しなくてもあと二つ部屋があるよ
僕は右奥の部屋を使うから君は遠慮しないで
ここを使ってくれ
そう思って部屋が沢山ある
ラグジュアリー・スイートを選んだんだ 」
杏奈は言葉につまってしまった
何か気の利いたセリフでも言いたかったが
どういう訳か言葉が出てこない
「そこに座って
紅茶とコーヒーどっちがいい?
今持ってきてくれたんだ 」
「それじゃ・・・紅茶を・・・」
実際杏奈は喉がカラカラだった
美しい型押し皮に覆われた座り心地の良い
ソファーに腰をおろした時は思わず安堵で
ため息が出た
腰を気持ちよく圧迫してくれている
ジャガード織りのクッションが気持ち良い
「僕はこれから船長やその他関係者に挨拶をしてから
少し会議室で報告会に参加しないといけないから
君はどうか休んでください
今日はとてもよく頑張ってくれた
夕食もルームサービスを頼めばいいよ」
「披露宴で・・・
食べた食事がまだ残っていて
お夕食食べれるかしら・・・」
「僕もそうだよ 」
そういえば彼は沢山食べてあれほどお酒を
飲んでいたのに彼の顔は平静そのもので
その黒い謎めいた瞳は杏奈に注がれたがすぐに
目の前のコーヒーに視線は戻った
杏奈は今朝からの結婚式と披露宴で
精も根も尽き果てているのに
彼はまだ今から仕事をするというのか
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