chapter 5 豪華客船とワルツ

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杏奈は視線を落としてシャネルのスーツの 丁寧な作りのスカートを見下ろした このスーツが原因で起こった彼との小さな いさかいを思い出して 杏奈の顔にやっと本物の笑みが浮かんだ 本当の結婚でもないのにこんな贅沢な 何十万とする贈り物など受け取れないと 杏奈は主張した しかし大和の方も頑固に受け取るべきだと 引き下がらないのでとうとう根負けしてしまったのだ 表面上だけでもこれはちゃんとした結婚なのだから 花嫁にプレゼントを贈るのは当然のことでもあるし それに二人の結婚が本当の結婚であるかのように 見せるのが自分達の絶対条件だと言うのが 彼の意見だった そのためにはこんなプレゼントを買うぐらいの余裕は十分あると・・・・・ そう頑固に言い張っている彼の顔を見ていると 杏奈は急にこの人に逆らいたくないなという 気持ちになった 彼は小憎らしい程の策士だ 世間に長け どんなたくらみでも見抜く力を持っている そんな彼はいくら演技だとしても 愛する人、夫としてはどうなのだろうか たとえ二人の間に愛がなくても これから半年間一緒に暮らすのだから お互いにある程度の思いやりを持って 相手を大切にすることは出来るのかしら? あるいは雇われ妻は単なるお飾りになるだけ? 人も羨む生活と高価な贈り物で満足させられて? 今杏奈の最大の関心は 彼から贈られる高価な贈り物ではなく 安部大和という人物がいったいどんな中身を 持ち合わせているのか 豪華な客室のリビングで杏奈は彼が気になって 緊張に汗をかきだしていた
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