chapter 5 豪華客船とワルツ

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シャッターが半開きになったガラス窓から差し込む光で杏奈は目が覚めた そしてすぐに不安定な上下する重力と見慣れぬ風景に 束の間自分がどこにいるのかわからなかったが 部屋を見回すうちに記憶がよみがえった ここは豪華客船の中で自分はハネムーン中だと 思い出した 乱れた髪をかき上げベッドの時計を見ると8時近い 偽装婚の一日目が始まったのだ あわててベッドから飛び起きた 彼はもう目を覚ましているのだろうか いくら偽装婚だとしても妻が夫をほったらかして 置いていつまでものんべんだらりと 寝ていられるわけがない 母は一度だって父をそんな風にほったらかしに したことはなかった 昨日はあのまま寝てしまったのだろうシャネルの スーツがしわだらけになっていた あわててリビングに飛び出すと 向かいの彼の部屋の扉が半分開いていた ノックをしてからそっとドアを開けて見てみると 部屋はもぬけの殻だった リビングのガラスのテーブルには 大和の書いたメモが残されていた dear杏奈 おはよう! 君が良い目覚めをしてくれてたのならいいが・・・ 朝食はリドデッキ側の「ブルーオーシャン」という カフェレストランで食べれるよ 僕も一仕事してから行くからそこで落ち合おう 朝食という文字を見て杏奈のおなかがぐぅ~っと鳴った メモを握りしめたまま急いでシャワーを浴びに行った 浴槽に入ると外国船らしくシャワーのヘッドは 頭上に固定されて雨の様に降りそそぐ タイプのものだったが これでは股間が洗えない・・・   みんなどうしているんだろうと考えていると ちょうどカランの当たりに後から付けたように ゴムフォースタイプのシャワーの混合栓が付いていた これなら体の隅々まで洗える 温度も水圧も申し分なかった 大理石の張った浴槽に備え付けられている ボディジェルは良い匂いで気に入った
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