chapter 5 豪華客船とワルツ

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・・・・・・ 杏奈はリドデッキのプールサイドに並んだ デッキチェアーにゆったり座り 船上での催し物の日程表が掲載された 「マリーナ・ニュース」に目を通していた 催し物は驚くほどにバラエティに富んでいる これから訪ねる土地に関するレクチャー ワインのテイスティング、美術品のオークション ダンスのレッスンといった長々と続くリストを確認した とりわけ大和が朝食の席で杏奈に言った ミラージュのカメラクルーが注文してくる 動画コンテンツ作りがフェイク妻の仕事で残っていた そのコンテンツの一つで豪華客船で夕日を浴びて 踊る二人のダンスシーンの動画を 欲しがっていると聞いた時は 杏奈は唖然とした 大和はショート動画サイトにゲリラ投稿 するものだから3分程の形だけでいいと言った とは言うもののそもそも自分が踊って 形になるのかどうかも不安だった 杏奈自身も社交ダンスは テレビで観たりするのは好きだが 自分がとてもあんな優雅に踊れるとは思わなかった なので興味はあったのだが実行する気にはなれなかった 形だけワルツでも踊れるようになったら 少しは自分に自信が付くかもしれない とりあえず何もすることがないので 今からボール・ホールで行われる ダンスのレッスンに行ってみようと思った 大和の話では従業員含め約1000人を 補給なしで一週間養えると言うだけある クイーン・マリーナ号のボール・ホールに たどり着くには思っていたより難しかった いたるところに船内地図が提示されてはいるものの そもそも左舷と右舷の違いも分からないので 方向感覚がつかめない 大和がいるリモート会議室もどこか分からない 何度か道に迷った末杏奈はようやく 目当ての場所を見つけることができた ボール・ホールに入ると 杏奈は片側の壁際に並んでいる女性達の列に加わった 周囲に何人か男性が間隔を開けて立っている 彼らはパートナーがいない女性のために 雇われたダンサーだと「マリーナ・ニュース」 に書かれていた すると杏奈の目の前に並んでいる 女性が声をかけてくれた 「ハーイ!ここは初めて? 袴田キクエ74歳よ! あなた海運王の花嫁ね! 昨日この船でもライブ中継してたの観てたのよ! お目にかかれて嬉しいわ よろしくね 」 キクエは白髪のショートカットがとても素敵な 老婦人だった 明るいオレンジのワンピースにターコイズの インディアンの様なネックレスをしている
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