chapter 5 豪華客船とワルツ

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杏奈が自然な感じで左手を大和の肩に置き 自分の腕を大和の腕にそっと乗せた 音楽が流れ 彼にしっかり引き寄せられ 腰と腰がピッタリ触れあう 彼が踏み出した一歩は正確に杏奈の脚の間に入った 大和は体を前に進めながら背中に当てた手の力を緩め 杏奈を最初のターンに導きくるりと回した そして杏奈にわかりやすく 「ワン・ツー・スリー」と 小声で合図を出しながらフロアを大きく回りだした 巧みなリードと確実な支えのおかげで 不思議と杏奈はまったく不安を覚えなかったし 彼がわかりやすく合図を出してくれているので やすやすとついていける さらに肩に置いた手に彼の逞しい 筋肉の動きが伝わって 動くタイミングがはっきり伝わるのだ 杏奈は弾む心で彼に導かれるまま ターンを繰り返していると わくわくして体が軽くなった 自分を導いてくれる腕に何も考えずに 身をゆだねリラックスして踊る楽しさだけに 浸っていた 二人は最初ゆっくり踊っていたが 曲のテンポが上がったのに合わせて 大和がリードを速めた もう怖くない! ペアダンスの極意がわかったような気がする 私は彼の一部なんだ 彼をただ感じて 彼のリードにしっかりついて行けばいいんだわ ターンするたびに杏奈のスカートが 太ももまで上がってうずまき 宙を舞っているかのようだった 彼に持ち上げられるとジェットコースターで 急降下するときの様に腹部がフワッとしてめまいがする 笑顔が自然に出ていた 彼も笑っていた  身も心も音楽にゆだね大和のリードで フロアをひたすら踊り回った いつの間にか二人のステップからぎこちなさが消え 杏奈はこれまで体験したことがないほどの 高揚感に包まれた
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