chapter 5 豪華客船とワルツ

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体がとても軽く感じられ これがダンスの効果なら地元に帰ったら すぐにダンス教室に入会したいぐらいだ しかしたとえワルツを完璧にマスターしても こんな気持ちになれない事は 自分でもわかっていた すべて彼のおかげだ たとえフェイクの夫婦でも彼はこうして 今自分の傍に来て 自分との時間を楽しむことを教えてくれようとしている 彼とダンスをしているこの何分間かで まるで生まれ変わったような気にさえなった どれぐらい時間がたったのだろう やがて息が切れて体のあちこちが 筋肉痛を訴え出した時 大和がペースを少しづつ落として フィニッシュを迎えた ハァハァ・・・ 「へとへとだ・・・ 」 ハァハァ・・・ 「わ・・・わたしも・・・ 」 彼は低く笑い足がもつれてフラフラしてる 杏奈を支えてソファーに座らせ 自分も崩れるように隣にドカッと座った 頬が上気し大汗をかいてヒールを履いた足が 痛かったが心はまだ二人で導き出した喜びに 浸っていた ヘアスタイルもメイクも乱れているのは 分かっていたが 杏奈は最後には彼におじけづくことなく ステップを踏めたことに満足していた ハァ・・・・・・ 「こりゃ・・・午後のリモート会議は 集中できないな・・・ 」 彼は立ち上がってう~んと伸びをした ポロシャツとスラックスの間から 日に焼けた彼の腹部が丸見えになった そして彼はスラックスを腰で履いていたので カルバンクラインのロゴの ボクサーパンツまで丸見えになった 「またディナーの時に会えるね 」 そう言ってダンスで頬を赤くしているのか 彼の下着を見てしまって赤くなっているのか わからない杏奈に彼は微笑んだ 杏奈は手で熱い頬をあおぎながら 立ち去る彼の後ろ姿を見送った 「まぁ・・・彼 あなたのために仕事を中断してきてくれたのね 大切にされていいわね~」 キクエさんが笑って杏奈に言った いつまでも体の熱が冷めず高揚感が失せないのは 生まれて初めて自分を優雅だと感じられた 喜びのせいなのか たくましい腕に抱かれて 踊ったせいなのか・・・ 杏奈には判断がつかなかった ともかくその理由はなんであれ 今の杏奈は幸せだった 複雑なダンスに挑戦して正人との婚約破棄以来 失った女としての自信を取り戻せることが 出来つつあった さらに仕事以外で大きな達成感を得ることもできた みんな彼のおかげだ 何より杏奈は自分を優雅で美しいと感じるという 素晴らしい体験をした もしこのまま彼と一緒に過ごす時間を もっと持ったなら あの正人との一件で粉々になった女性としての 自信をつけさせてもらえるだろうと 期待せずにはいられなかった
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