chapter 5 豪華客船とワルツ

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・・・・・・ アグネスとかいうモデルは信じられないほど ほっそりした美女だった 顔立ちは非の打ちどころはなく 輝く茶色の瞳・・・ 真っ黒のワンレンのロングヘア―・・・ 付けたような鼻 抜ける様な白い肌 官能的なふっくらした赤い唇 まるで完璧が現実になったようだ・・・ でもどこかこの顔立ちには見覚えがあった そうあの「ミラージュ」のメイクアップチームだ 彼女達もどこか同じ顔立ちで 杏奈はアグネスと言うこの人も やはり顔をいじっているのだろうと感じた 「こんばんは、キクエさんホノカさん 」 アグネスの挨拶は二人に向けられたものだが 視線は杏奈をまっすぐに射貫いていた 「ごきげんよう、アグネス、お父様はお元気?」 キクエの声は冷ややかだが アグネスは意にも介さないようだ 「今日はご親戚が一緒なの?」 アグネスは杏奈を見てからかうような口調だったが 目は笑っていなかった 隣でホノカが息を凝らしたのが 杏奈にはわかった 「この人は海運王の花嫁の杏奈よ! あなたも船から見ていたでしょう?」 ホノカが怒って言い返した 一気に周りは彼女達をめぐって 険悪な雰囲気になった 「ヤマトも思い切ったことをなさったわね 彼は正式な結婚なんか考えてもいなかったくせに」 かすかに作り笑いを浮かべる 「でも安部家の後継者をこしらえる責務が ありますものね しかたがないことですわ」 いったいどんな関係だったのかしら・・・・ 杏奈は思った しなやかなアグネスの体が大和に絡んでくる所を 想像して思わずムッとした そこでハッとした ・・・なぜ私はムッとしなければいけないの?
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