chapter 5 豪華客船とワルツ

26/34
前へ
/383ページ
次へ
..:。:.    .:*゚:.。: クスクス・・・ 「もう・・・その話はもうお忘れになって・・」 杏奈が言う 「それはできないな なぁ・・・教えてくれよ さっきの君のアグネスへの当てこすりと言い 君はそんな虫も殺さないような可愛い顔をして 時々恐ろしい程辛辣になるよね? まるで気の強い高級な猫みたいだ  どこでそんな技を習得したんだい?」   二人が散歩している夜の豪華客船のデッキは 星が降って来そうなぐらい明るくて 今は潮風もなだらかだった 華々しく騒々しい宴が終わって二人はとてもリラックスしていた 彼のやわらいだ声はとてもセクシーで さっきからずっとアグネスと起こした小さ な小競り合いをネタにからかわれているが 杏奈はそんな彼を嫌だとは思えなかった 「そんな・・・辛辣だなんて・・・ 困ったわ・・・もう許してくださいよ・・・」 杏奈は恥ずかしくて顔を右にそむけた すると大和も同じように右に来て 彼女から視線の逃げ道をふさぐ どう言っても逃がしてくれない 今は大和は彼女をからかうのが楽しくて しかたがないと言った感じだ 「ぜひとも辛辣な口調をレクチャーしてほしいのさ 今度の会議で使えるかもしれない 」 クスクス・・・・ 「でも・・・少しはお考えになって下さい 私は女三姉妹で育って女子高、女子大上がり そして何十人と女性がいる秘書課の主任だったんですよ いわば・・・生まれてからこの方ずっと女の世界で 生きているんです・・・ さっきのことなんか・・・まだ甘いですよ 」 「そうなのか!女の園は恐ろしいな! いわば君は女帝だな」 わざとらしく大和は怯えた顔をして 杏奈から身を引いた 「まぁ!ひどい 」 クスクス笑いが止まらない 彼の顔がすぐそばに迫って髪にミントの息が かかるのを感じると杏奈はドキドキしだした 今は誰もいないのに・・・これも演技なの? 二人はリビングのデッキをゆっくり散歩した 船内では陽気な音楽と人々のざわめきが聞こえ この船は24時間眠らず暇と金を持て余した 客を楽しませる まだまだ騒ぎ足りない乗客たちは 次々とクラブにシアターに繰り出している そうこうしているうちに客室にたどり着き 二人はお互いの部屋を背にリビングの 真ん中に立った 「さぁ!お部屋につきましたよ! このお話はここまで!」 杏奈は肩眉を上げて大和に言った 「残念だ!もっと聞きだしたかったのに」 大和もクスクス笑っている 「これ以上突つかれても 私からは何も出てきませんよ」 杏奈はわざと怖い顔をして大和を睨んだ しかし効き目など全くないのも分かっていた 「まつ毛がついてる こっちみて」 杏奈の頬に彼の手が伸びてきて 上を向かされる 彼が杏奈にこんなに長く触れるのは初めてだ その指は力強いが優しく熱くなった頬に ひんやりと感じられた 信じられないぐらい心地よくて 親指でそっと頬を撫でられ杏奈は息ができなくなった 途端に以前に彼にされたキスを思い出し うなじからゾクゾクとした震えがおりてくる 彼はこんなふうに女性に触れることに 慣れているみたいだ どうしてそんな目で私を見るの?・・・・ 緊張をはらんだ静けさの中で そっと彼が顔を近づけてきた 杏奈の心臓は狂ったように打ち出した キスをされるのだと思って興奮に胃が引きつった 手をどこに置けばいいかわからず二人の間に 閉じ込められた蛾のようにひらひらと動かしてしまった それなのに結局キスをされなかったので 杏奈は正直がっかりした 彼が体をひいて杏奈のおでこを 人差し指でちょんっと突いた 「おやすみ 」 ゆったりと気だるい声で彼が言うと 甘い旋律が杏奈の体を駆け抜けた 「お・・・・おやすみなさい・・」 もう・・・ そう口にするのがやっとだった
/383ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7626人が本棚に入れています
本棚に追加