chapter 5 豪華客船とワルツ

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ストリートに均一に並ぶ賑やかな露店は どれも魅力的で衝動買いしたくなるものが 沢山あるけど決して実用的ではなかった それでも美しく飾ってあるビーチサンダルや 綺麗な南国らしいスノードームを眺めていると 心がウキウキしてくる その時突然首元にシュッと何かを拭きつけられて 冷たい感覚を覚えた びっくりして振り向くと 日焼けした肌に若いパレオを巻いた女性が 真っ白い歯を見せて杏奈に笑いかけた 「お美しい人魚のようなお方には このフレグランスがピッタリですよ」 と彼女は小さな香水瓶を差し出した 途端にバニラの香りがかすかにまじった 爽やかなフローラルの香りが 杏奈の鼻孔をくすぐった 杏奈は首を振った するとさらに香りが広がる とても良い匂いだった 驚くほど女性らしい気持ちにさせられる香りだった ほんのりと自然な香りを好む杏奈は 香水よりもシャンプーや柔軟剤で香りを 楽しむタイプだった 女性の店員は韓国なまりのある日本語で 香水の名前が「マーメイドの誘惑」と言って 素敵なあなたにピッタリだとしきりに 杏奈に言う その香りを嗅いでいるとダンスホールで 大和に抱かれ軽快なステップを踏んでいた時と 同じ気持ちにときめいて なんだか自分が良い女になったような気持ちにさせられた もう一度あのダンスのときめきを味わいたいという 強い気持ちに背中を押され 気づいたら杏奈はクレジットカードを彼女に渡し 買うつもりも使うつもりもなかった ピンクの綺麗な瓶に入った香水を購入していた 黄色いショッピングバッグを受け取ると 後悔しているどころか とても満足している自分がいた そして杏奈の香水はキクエ達にも評判が良く また杏奈はキクエ達を引き連れてその露店に戻った 女性の店員は便器のような真っ白い歯を見せて 客を連れて戻って来た杏奈の両手を握って ブンブン振り感謝の意を表した そしていらないと言ってるのに 山のように沢山詰まれた 韓国ノリのおまけをもらった
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