chapter 5 豪華客船とワルツ

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そして大和を見ると 片手に手帳にメモを取りながらもう片方の手で ノートパソコンのキーボードを打ちつつ スピーカーホンにした電話に向かって 指示を与えていた   途端に杏奈の心がときめいた   今杏奈の前にいるのは 自分を完璧にコントロールして いくつもの作業を同時にこなせる男性だ  こうして仕事をしている彼を見ると 思わず彼の秘書をしていた頃を思い出す どうして自分はあの頃の彼に恋をしなかったのだろう ―恋?― 杏奈は思わず自分が思ったことを訂正した これはビジネスなのだ 彼が杏奈に気づいて微笑んだので 杏奈も気を取り直して垂直に立ちなおした 「またあとでかける  その間に予定表を訂正しておいてくれ」 そう電話に向かって言った大和が ボタンを押して通話を終えると ペンを机に投げ出して杏奈の所に ズカズカ歩み寄って来た 顔は険しく眉間にしわが寄っている 「なんだ!どうした?何かあったのか?」   「あ・・・あの・・・これ・・」 さらに近づいて来た大和の心配そうな顔に 杏奈は息が止まるかと思って 両手に抱えていた箱を差し出した  箱を開けると とても甘い良い匂いが部屋に充満した 「おおーーーーー!焼き立てかっ!」 箱いっぱいに焼き菓子の サーターアンダギーがつまっていた 先に島で杏奈達が食べてとても美味しかったので 仕事漬けの彼に食べさせてあげたくて 買ってきたのだ 「30分休憩にしよう」 大和がそう言うと他のディアマンテと ミラージュスタッフは喜んで杏奈に礼を言った ザワザワとみんなコーヒーをカフェに 買いに行ったり それぞれ自由に過ごしている 自分の会社のスタッフがこんなにもこの船に 乗り込んでいるのを杏奈は初めて知った クンクン・・・・ 「ん?こっちも良い匂いがする・・・」 と大和が言ったかと思うと 驚いたことに杏奈の腰をガシッと掴み 杏奈をクンクン匂いだした 途端に杏奈は真っ赤になった そして瞬く間に小さな給湯室に押し込まれ ドアを閉められた
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