chapter 5 豪華客船とワルツ

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「ところでなんだ?この香水は? 」 優しい口調で言う 伏し目がちな大和の視線を感じながら 長身の存在感のある彼があまりにも近くにいて 杏奈の鼓動は自然と早くなった 彼に詰め寄られ杏奈のお尻が流し台に当たって 逃げられない 「1メートル以内に近づく男は みんな罠にはまってしまうだろうな? 僕がその証拠だ この匂いに気づいた瞬間君に囚われてしまった 君は僕の覚えでは香水なんか付けないタイプだと思うんだが」 「ろ・・・・露店で買ったんです・・ (マーメイドの誘惑)って言うんですって・・・」 「誘惑」という言葉を杏奈の口から 聞かされたせいで 彼は想像力を刺激されたらしい 彼は杏奈の背中をそっと撫で 硬い自分の胸板に抱き寄せた 「ここから匂いがする」 突然首筋に押し付けられた鼻と温かな唇に 硬直したまままともに物を考える事すらできない 「三分間だけこのまま・・・・ あ~・・・癒される・・・・」 そう言って首筋に熱い息を吐かれながら しばらく彼に抱きしめられるまま くずおれてしまいそうで何も考えることが出来なかった 杏奈はただ・・・ 彼の傍にいたかった 杏奈の肩にかかった一房の髪を 大和は優しく手に取った そしてまるで花びらの香りを楽しむように 指先でこすった 大和はまるで小屋から遠く離れて遊んでいた所を 飢えたオオカミに捕まった ウサギのような杏奈を腕に抱き しばらく至福の時を味わった この可愛らしいウサギは今は 耳を垂らして恥ずかしがって 全身真っ赤になって震えている それでも抵抗せずじっと立ち尽くし 大和の好きにさせている これも義務感からだろうか?・・・・ 本当なら彼女を四つん這いにさせて スカートをめくりあげ 欲望のおもむくまま 彼女の中に入り暴れたかった 大和は途端にここは会議室で この純粋無垢なウサギは偽装婚のビジネス妻で 自分が言い出したのが悔しいが友達なのだ こんな事をするべき相手ではない 「もう仕事に戻らないと・・・・ 」 そう言って彼は杏奈をやっとの思いで離し 腕時計に目をやった 「差し入れをありがとう 今夜のディナーは大食堂ではなくて 二人っきりでとろう 日本食レストランを予約しておくよ 」 優しい声だ 「今夜は君と一緒に過ごしたい」 その捨てセリフを残して 給湯室から解放された 杏奈は真っ赤になってまさに脱兎のごとく 会議室から逃げ出した
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