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「ところでなんだ?この香水は? 」
優しい口調で言う
伏し目がちな大和の視線を感じながら
長身の存在感のある彼があまりにも近くにいて
杏奈の鼓動は自然と早くなった
彼に詰め寄られ杏奈のお尻が流し台に当たって
逃げられない
「1メートル以内に近づく男は
みんな罠にはまってしまうだろうな?
僕がその証拠だ
この匂いに気づいた瞬間君に囚われてしまった
君は僕の覚えでは香水なんか付けないタイプだと思うんだが」
「ろ・・・・露店で買ったんです・・
(マーメイドの誘惑)って言うんですって・・・」
「誘惑」という言葉を杏奈の口から
聞かされたせいで
彼は想像力を刺激されたらしい
彼は杏奈の背中をそっと撫で
硬い自分の胸板に抱き寄せた
「ここから匂いがする」
突然首筋に押し付けられた鼻と温かな唇に
硬直したまままともに物を考える事すらできない
「三分間だけこのまま・・・・
あ~・・・癒される・・・・」
そう言って首筋に熱い息を吐かれながら
しばらく彼に抱きしめられるまま
くずおれてしまいそうで何も考えることが出来なかった
杏奈はただ・・・
彼の傍にいたかった
杏奈の肩にかかった一房の髪を
大和は優しく手に取った
そしてまるで花びらの香りを楽しむように
指先でこすった
大和はまるで小屋から遠く離れて遊んでいた所を
飢えたオオカミに捕まった
ウサギのような杏奈を腕に抱き
しばらく至福の時を味わった
この可愛らしいウサギは今は
耳を垂らして恥ずかしがって
全身真っ赤になって震えている
それでも抵抗せずじっと立ち尽くし
大和の好きにさせている
これも義務感からだろうか?・・・・
本当なら彼女を四つん這いにさせて
スカートをめくりあげ
欲望のおもむくまま
彼女の中に入り暴れたかった
大和は途端にここは会議室で
この純粋無垢なウサギは偽装婚のビジネス妻で
自分が言い出したのが悔しいが友達なのだ
こんな事をするべき相手ではない
「もう仕事に戻らないと・・・・ 」
そう言って彼は杏奈をやっとの思いで離し
腕時計に目をやった
「差し入れをありがとう
今夜のディナーは大食堂ではなくて
二人っきりでとろう
日本食レストランを予約しておくよ 」
優しい声だ
「今夜は君と一緒に過ごしたい」
その捨てセリフを残して
給湯室から解放された
杏奈は真っ赤になってまさに脱兎のごとく
会議室から逃げ出した
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