chapter 6 太陽と風に抱かれて

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一番左端から3つ目までは 大きな杏奈ぐらいの背丈がある肖像画だった 「一人一人紹介する?」 杏奈はクスクス笑った 「いいえ 覚えられそうにないわ 直近のお爺様とお父様だけ教えて」 「ご先祖が聞いていたら薄情だと怒るぞ」 「もう・・・夜ここを通るのが怖くなるじゃない」 自然と大和が杏奈の肩を抱いて 肖像画の最後の列まで導いた 「これが僕の父と母・・・」 大きな一組の家族写真だった 椅子に座っている美しい女性と その女性の手を握っている小さな男の子がいた 大和だ・・・・ そして女性の肩に手を置いているダブルの スーツの男性はきっと彼のお父さん・・・ 乳がんで彼が五歳でこの世を去った女性・・・ 前髪を七三にぴっちり分けられて 眉にしわを寄せてこちらを睨んでいる ハンサムな顔つきの男性・・・・・ それが彼の両親だった そしてその横にある大きなセピア色の写真に 一人で映っている男性にひときわ杏奈は惹かれた 「・・・この人が・・・あなたのお爺様?」 大和が頷いた 彼の口元に厳しいものが漂った 「そう・・・僕の祖父です」 では・・・・ この人が孫に結婚を無理強いした人なのね 困り果てた孫が偽装結婚をたくらむほど・・・ 杏奈はその鋭い眼つきを持つ 浅黒い顔に見入った 改めて隣にいる自分が結婚した人と よく似ていることに驚かされた おそらく二人は性格も似ていたのだろう だから衝突してしまったのかもしれない 一体どうしてこんなにもややこしく二人は 衝突してしまったのだろう・・・ しかしそれを聞くことは出来なかった なんてたって今杏奈はフェイク婚期間中で 自分は奇妙な立場の嫁なのだ なんでも話せる友達は この領域に入れるものなのだろうか・・・ 「何?」 杏奈の顔にもの言いたげな表情が浮かんだのを 大和は見逃さなかった 「あなたのことちっとも知らないってことに 気が付いただけ・・・・ 」 ためらいがちに杏奈は言った 「たしかにそれは公平じゃないな 僕は君のことを色々知ってるんだからな」 杏奈は笑った 「私はあなたほど複雑ではありません 薄っぺらい人間よ」 いや絶対そんなことはない・・・・ 大和は心の中で言った
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