chapter 6 太陽と風に抱かれて

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「大旦那様も本当にお若くてね その頃は波止場で輸出した商品を捌くために 大旦那様は何人か従業員を雇っていました そのうちの一人が私の主人です・・・・ それが大嵐で船ごと沈没し 私の夫は還らぬ人になりました 当時私には乳飲み子が5人いました 唯一の頼りになる夫を亡くして途方に暮れている 時に大旦那様がこの屋敷を切り盛りする家政婦長に ならないかと打診して下さったのが始まりです 当時はもう少しこじんまりした屋敷でしてね 大旦那様が成功されるごとに増築して 今やこの屋敷はこの島のシンボル的存在になりました 国の重要文化財にもなっているんですよ 」 「今お富さんのお子さんは?」 「みんな立派に独り立ちしています あっそうそう今日はお暇を頂いてますけど 私の知り合いの娘で23歳なんですけど 新しく奥様の身の回りのお世話役で明日から来ますから よろしくお願いしますね 」 杏奈は委縮した 「でも・・・ 私の身の回りの世話なんて・・何もないのよ? 今まで全部一人でやってきたのですから・・」 「では雑用係で雇ってやってくださいな あの子は都会に嫁に行ってたんですが ちょうど離婚して帰って来ましてね・・・ ちゃんとした職に出会えるまでの間だと 思っていますので」 「そう・・・それはお気の毒ね でも私も色々この島の事を教えてもらいたいから 来てもらえるとありがたいわ」 家政婦長はまたエプロンの端で涙を拭いた 「お優しい奥様で本当に私は幸せです 」 次に家政婦長が紹介したのは庭師の秀樹だった 彼はまだ若く祖父の仕事を継いでこの屋敷に 隔週で庭の手入れをするために雇われていた 彼は本来は植木職人なのに植物の事に関しては 和・洋と多彩な知識を持っていた 体格はひょろひょろとして まだ若いのにもう額が後退しかけていた 丸い小さな眼鏡を鼻梁に乗せている 秀樹は杏奈を家政婦長から紹介されるや 美しい杏奈を目の前にすると すっかりのぼせあがり 島の天気や歴史、杏奈の注意を引けることなら とにかくなんでもしゃべりつづけた 「少しは舌を休ませてはどうだい?」 お富はやれやれと面白がっていた 「奥様がお疲れになってしまうよ」 「も・・・申し訳ありません・・奥様!」 杏奈はクスクス笑いながら 大丈夫とお富に合図した
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