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「大旦那様も本当にお若くてね
その頃は波止場で輸出した商品を捌くために
大旦那様は何人か従業員を雇っていました
そのうちの一人が私の主人です・・・・
それが大嵐で船ごと沈没し
私の夫は還らぬ人になりました
当時私には乳飲み子が5人いました
唯一の頼りになる夫を亡くして途方に暮れている
時に大旦那様がこの屋敷を切り盛りする家政婦長に
ならないかと打診して下さったのが始まりです
当時はもう少しこじんまりした屋敷でしてね
大旦那様が成功されるごとに増築して
今やこの屋敷はこの島のシンボル的存在になりました
国の重要文化財にもなっているんですよ 」
「今お富さんのお子さんは?」
「みんな立派に独り立ちしています
あっそうそう今日はお暇を頂いてますけど
私の知り合いの娘で23歳なんですけど
新しく奥様の身の回りのお世話役で明日から来ますから
よろしくお願いしますね 」
杏奈は委縮した
「でも・・・
私の身の回りの世話なんて・・何もないのよ?
今まで全部一人でやってきたのですから・・」
「では雑用係で雇ってやってくださいな
あの子は都会に嫁に行ってたんですが
ちょうど離婚して帰って来ましてね・・・
ちゃんとした職に出会えるまでの間だと
思っていますので」
「そう・・・それはお気の毒ね
でも私も色々この島の事を教えてもらいたいから
来てもらえるとありがたいわ」
家政婦長はまたエプロンの端で涙を拭いた
「お優しい奥様で本当に私は幸せです 」
次に家政婦長が紹介したのは庭師の秀樹だった
彼はまだ若く祖父の仕事を継いでこの屋敷に
隔週で庭の手入れをするために雇われていた
彼は本来は植木職人なのに植物の事に関しては
和・洋と多彩な知識を持っていた
体格はひょろひょろとして
まだ若いのにもう額が後退しかけていた
丸い小さな眼鏡を鼻梁に乗せている
秀樹は杏奈を家政婦長から紹介されるや
美しい杏奈を目の前にすると
すっかりのぼせあがり
島の天気や歴史、杏奈の注意を引けることなら
とにかくなんでもしゃべりつづけた
「少しは舌を休ませてはどうだい?」
お富はやれやれと面白がっていた
「奥様がお疲れになってしまうよ」
「も・・・申し訳ありません・・奥様!」
杏奈はクスクス笑いながら
大丈夫とお富に合図した
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