chapter 6 太陽と風に抱かれて

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・・・・・ 大和との生活が始まって最初の一か月で 杏奈は自分のフェイクの夫が殺人的な スケジュールで働いていることを知った ディアマンテで秘書をしていた頃は 彼のスケジュールは把握していたつもりだったが なんでもここ数年彼は本社の仕事にかまけて この安部家が統治する島の修繕や 田畑農地の開拓やまたは地元漁師達との交渉ごと 地元住民と観光業の取り決めなど 彼は結婚を機会に自分が当主になったことで 祖父が他界してから長年放置していた 事柄を精力的に片づけていた さらに新事業のディアマンテが最も力を入れている 「メタンハイドレード」燃料化の科学技術部門では この島の西部に本格的な基地を開発し 大和は毎日その研究所にも足を運んでいた そしてその隙間時間を使って本社の 業務報告をリモート会議でやっていた なので杏奈は確実に彼と顔を合わせるのは 朝食の時ぐらいで 朝食といっても彼はコーヒーしか飲まず 二言三言ことばを交わす程度で 夕食のときにもあまり現れず 深夜をまわる前に休む日はめったになかった さらにフェイクの夫は一度に二つ、あるいは三つの 事柄を進めるのが好きらしく 終始何かの一覧を作ったり計画を練ったり 話し合いの席を設けたり 誰かの仲裁役を買ってでたり 手助けをしたりしている
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