chapter 6 太陽と風に抱かれて

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「うちの畑で取れたレモンなのよ この島の太陽を目いっぱい吸ってこんなに 大きくなったの 」 そう言いながら彼がレモネードを一気に飲み干す さまを眺める カランッ 「おかわりっ」 杏奈はクスクス笑いながらレモネードを注いだ 窓からそよそよと入ってくる初夏の風と レモンの爽やかな香りが部屋にいっぱい漂う その間になんと大和はバクバクと 3口でパンケーキを平らげてしまった 満足そうにソファーの背もたれにもたれて フーッとため息をついた 「もう・・行かないと・・・」 ファーっ・・と大きなあくびをして 彼は呟き目元をこすった 「10分経ったら起こしてあげる 10分ぐらいなら大丈夫でしょう?」 杏奈は優しく・・・ しかし有無を言わさぬ口調で命じた 前髪を優しく後ろに手櫛で梳かす 「10分・・・・・・」 そう呟いて すぐに彼は眠りについた 「大成功」 杏奈はにっこりした 彼の顔を思う存分に観察するのはこれが初めてだった すっかり無防備な状態のフェイクの夫を見るのは 何だかとても楽しかった 眠っていると無邪気と言えるほど 表情が穏やかになり いつもの厳めしい顔つきの彼とは別人に見えた 今は小さく口を開けて 悲し気に眉を寄せている彼の寝顔は まるでひとりぼっちで迷子になった少年の様だった 杏奈はそっと彼の靴を脱がし 両足をソファーに上げて軽い毛布をかけた
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