chapter 6 太陽と風に抱かれて

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「・・・あのっ・・・ トレーを返してきますねっ・・」 飛びのいた杏奈はテーブルに置いてあった トレーをもってそそくさと部屋から出て行った 「ふんっ」 肩肘を付き大和はソファーに脚を組み パタパタと赤くなって逃げて行くウサギを見送った 日に日に大和はこの契約に縛られている 二人の関係が煩わしくなってきていた ここ一か月 彼女は大和がこの家で快適に暮らせるように 生活環境を整えてくれていた その手際の良さに彼は心から感謝していた 彼女は本当に良い妻だった 家事を切り盛りするのも 押し寄せてくる訪問者を接待するのも 夫に付き添って社交の場に顔を出すのも 彼女にとってとてもスムーズで簡単なことのようだ 彼女は控えめに大和の様子をいつも見守っていて 意見を求められればハッとするような 視点でものを言う 海運王は良い妻を娶ったと業界では 羨ましがられているのも大和は知っている 家の召使いたちもみんな彼女の事が好きだ 大和自身も女子大の秘書課卒業の彼女の 教養の高さは以前から評価していたし やはりどこの地域にも一定している この島の貧民層の慈善活動にも彼女は 自ら心を砕き力を入れてくれている 彼女は物静かだが魅力的な 品格を備えた女性だ 誰もがそう思っているし 彼女を妻にしたことは これっぽっちも後悔していない
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