chapter7 愛が生まれた日

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奥の貯蔵室にいる家政婦長の お富を気にしたのだろう 久美子が声を潜めて人差し指を立てた 「あのお二人はまだベッドを共にしていないわ 断言できる!」 「おい!いいかげんに―」 (あるじ)のプライバシーを侵害しようとする 召使い二人に健三は怒りを込めて抗議した 「少しぐらいいいじゃないか健さん 」 庭師の秀樹が健三をさえぎり 黒糖パンの乗った大皿を健三に押し付ける 「それで?それで? 旦那様が奥様の畑に種を蒔いてないって どうして思うんだい?理由は? 」 いかにも庭師らしい比喩で表現する秀樹 「種を蒔く?」 意味が分からず久美子がおうむ返しに 秀樹に聞いた 「みんな想像力に欠けているな 美しい比喩じゃないか」 「お二人の関係性を疑う理由は?」 気が付くと料理長の健三が 二人の近くに椅子を置いてドカッと座って言った 「私はあの二人の部屋の シーツを変えているのよ!」 久美子はポっと頬を染め そんなこともわからないの?とばかりに簡潔に答えた 「どうしてシーツを変えていて 旦那様が奥様に傘を刺していないとわかるんだ?」 健三が方眉を上げ詰問した 「傘を刺す? またわからない比喩が出て来たわ」 久美子が頬を染めてあきれ顔で言った 「そもそもたとえシーツを変える係じゃないとしても ちょっとした観察力があればすぐ分かるわよ! あの二人はどうも夫婦らしくない」 秀樹は心配顔で真剣に頬を抑えて言った 「ひょっとして・・・・ 旦那様のにんじんに何か問題でもあるんだろうか?」 「いや!旦那様の傘にはまったく問題はない! 断言できる!旦那様には過去に大旦那様と 喧嘩するほど愛している女性がいた」 健三がぶっきらぼうに言った 「もう・・・・にんじんだったり 傘だったり? 変な比喩ばっかりやめて!」 次に口を開いたのは秀樹だった 「でも奥様はきっと旦那様に良い影響を与えると思うよ! 彼女は周りの人に深い愛情を示す人だ 旦那様のにんじんに何も問題が無いのなら きっと奥様さえその気になって頂いたら―」 「あの二人は仲が良いけど どこかお互いに遠慮し合っているわ」 もうたくさんとばかりに健三が ガタンと音を立てて立ち上がった 「とにかく!あの二人のプライバシーには 立ち入りするんじゃない! この俺が許さないからな!」 健三は警告するように二人に言った
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