chapter7 愛が生まれた日

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快晴の朝である 大和は巨大な海洋採水装置へ続くタラップの上に立って 双眼鏡で今は沖をじっと見つめていた 海風が心地よく吹き 海には小さな三角波が立っていた 大和の覗く二つの丸くて黒い縁の双眼鏡の向こうには 沖にグリーンピース色の船体に数人の中国人が 見えていた 「あの船は先週よりも900メートルの距離まで 近づいてきているぞ 海上保安庁に連絡をいれよう!」   黄色い安全ヘルメットをかぶった 採水現場監督が不思議そうに大和に聞く 「しかし・・・ あの船は中国のただの漁船ではないでしょうか? まだ漁業海域も守っていますし・・」 「よく見て見ろ 全員銃を持っている 」 そう言って同じく安全ヘルメットをかぶった大和が 現場監督に双眼鏡を渡した いぶかし気に監督は双眼鏡で沖にいる 中国漁船をのぞき見する   「・・・まさか・・・・ 」 一気に現場監督が厳めしい表情になる たっぷり間を置いた所で大和が言った 「あれは漁船なんかじゃないよ、軍艦だ 」 浜辺へと続く鉄製のタラップを大股に歩く大和に 慌てて監督と技師達が追いかけてくる 「どうやら奴らも僕達と目的は同じみたいだな メタンハイドレードを狙っている」 燃料補給の準備に忙しくしている作業員を横目に 何メートルもある海水吸い上げ装置付きのホースの 唸り音があたりに響いているので 大声を出さないと話が出来ない 「昨日二号機から採掘された 水質調査隊からのデータは以上の通りです 」 そう言って差し出されたクリップボードの 報告書に大和は素早く目を通した 「この濃度だと到底メタンハイドレードの燃料化 は無理だ 」 「あと2キロ掘ってみます 水域計算によるとちょうどこの区域で 海流の流れが計算と一致しますので」 「どっちにしろこれでヤツらもこの島の 海域に豊富にあるメタンハイドレードを 狙っていることが明らかになったな 」 「・・・・私の友人に海上自衛隊に 知り合いがいます さっそく報告しましょう」 「いや・・・それはちょっと待ってくれ 事を大げさに荒げたくはない 」 そうなのだ・・・・ この島は日本でも唯一海洋資源が豊富で 大和が偽装婚をしてまで相続したのは この島の資源をめぐって近隣諸国で 争いが勃発しようとしていたからだ そしてそれは杏奈には言っていないが 祖父のもう一つの遺言にもあったことだ メタンハイドレードを燃料化することは 先代の大和の祖父(昭三)が望んでいた事だ 今ではそれが大和の生きがいで 祖父の願いなのか大和の願いなのか その境界線が分からなくなっていた
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