chapter7 愛が生まれた日

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「・・・安部のやんちゃ坊主の 面影が残っとるなぁ・・・   」 彼は大和の近くにいくと大きな診察カバンを置き 茶目っ気と思いやりの混じった 眼差しを大和に向けた 「・・・・まだ生きてたとはな・・・ じいさん」 杏奈は息を飲んで両手を口元に持って行った お医者様になんてことを! しかし先生は見事なほど辛抱強かった 「お前の爺さんが早死にしすぎたんだよ わしゃまだ七十じゃ! 秀樹から聞いたがあそこの海洋現場で災難に あったそうだな」 そう言うと素早く先生は上着を脱ぎ 真っ白い白衣になると大和の傍へ寄った 「服を脱がせたのは賢明じゃ これからどんどん腫れあがるからの 」 大和は頷いた 冷汗が彼の顔を伝っていく ドクター佐原は丁寧に大和の頭や 内臓などを触診して診察していった そして最後に肩の腫れをじっとみつめる 「綺麗にすっぽり抜けとるの 今から肩の関節を入れにゃいかん おい!秀樹! ボーッとつっ立っとらんで! コイツの反対側に回ってコイツを抑えろ 」 ドクター佐原が大和の口元に皮帯を当てた 大和が怪訝な表情をした 「・・・清潔なのか?」 「舌を噛んでもよいのか?」 しばらくためらったものの 大和は覚悟を決めた様子で皮帯を噛んだ 「奥方か?」 ドクター佐原が鋭い視線を杏奈に向けた 「は・・・・はい!」 「あんた達二人はコイツの両足を 全体重を使ってしっかり押さえてくれ」 と杏奈と久美子に命令した 杏奈は心臓がドキドキしっぱなしだった ドクター佐原は全員が大和を しっかり押さえているのを確認してから ゆっくりと滑らかに 腕を引っ張りながら 素早く回して一気に上に押し上げた 大和のくぐもった絶叫が部屋に響いたと同時に 関節がバキッと音をたてて元の位置にはまった やがて痛みが消えたのか 大和は横を向いて皮帯をペッと吐き出し 思い切りヒューヒュー息を吸った 髪の毛が冷汗でびっしょり濡れている 「うまくいったの」 ドクター佐原は大和の右肩を触診して 肩が正常な位置に収まったことを確かめ 満足げに告げた 「コイツにウイスキーを一杯やってくれ」 「に・・・二杯だ 」 「一杯じゃ 」
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