7622人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・安部のやんちゃ坊主の
面影が残っとるなぁ・・・ 」
彼は大和の近くにいくと大きな診察カバンを置き
茶目っ気と思いやりの混じった
眼差しを大和に向けた
「・・・・まだ生きてたとはな・・・
じいさん」
杏奈は息を飲んで両手を口元に持って行った
お医者様になんてことを!
しかし先生は見事なほど辛抱強かった
「お前の爺さんが早死にしすぎたんだよ
わしゃまだ七十じゃ!
秀樹から聞いたがあそこの海洋現場で災難に
あったそうだな」
そう言うと素早く先生は上着を脱ぎ
真っ白い白衣になると大和の傍へ寄った
「服を脱がせたのは賢明じゃ
これからどんどん腫れあがるからの 」
大和は頷いた
冷汗が彼の顔を伝っていく
ドクター佐原は丁寧に大和の頭や
内臓などを触診して診察していった
そして最後に肩の腫れをじっとみつめる
「綺麗にすっぽり抜けとるの
今から肩の関節を入れにゃいかん
おい!秀樹!
ボーッとつっ立っとらんで!
コイツの反対側に回ってコイツを抑えろ 」
ドクター佐原が大和の口元に皮帯を当てた
大和が怪訝な表情をした
「・・・清潔なのか?」
「舌を噛んでもよいのか?」
しばらくためらったものの
大和は覚悟を決めた様子で皮帯を噛んだ
「奥方か?」
ドクター佐原が鋭い視線を杏奈に向けた
「は・・・・はい!」
「あんた達二人はコイツの両足を
全体重を使ってしっかり押さえてくれ」
と杏奈と久美子に命令した
杏奈は心臓がドキドキしっぱなしだった
ドクター佐原は全員が大和を
しっかり押さえているのを確認してから
ゆっくりと滑らかに
腕を引っ張りながら
素早く回して一気に上に押し上げた
大和のくぐもった絶叫が部屋に響いたと同時に
関節がバキッと音をたてて元の位置にはまった
やがて痛みが消えたのか
大和は横を向いて皮帯をペッと吐き出し
思い切りヒューヒュー息を吸った
髪の毛が冷汗でびっしょり濡れている
「うまくいったの」
ドクター佐原は大和の右肩を触診して
肩が正常な位置に収まったことを確かめ
満足げに告げた
「コイツにウイスキーを一杯やってくれ」
「に・・・二杯だ 」
「一杯じゃ 」
最初のコメントを投稿しよう!