chapter7 愛が生まれた日

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お富が頷き 慌てて壁と一体となった戸棚から ジャックダニエルを持ってきて ストレートグラスに 満々(なみなみ)と注ぎ 大和の口元に持って行った 大和は一気に二杯ごくごく飲みほした あまりにも原始的な治療法に杏奈はあっけに取られた こんな大怪我をした怪我人にお酒を飲ませるなんて 都会の病院では決していない治療だ 「お前さんが弱っとる姿を見るのは気分が 良いのぉ~」 ドクター佐原はホッホッホッと笑った 「・・・・すげぇ痛かったぞ くそじじぃ・・・ 」 今では杏奈もなんとなくわかってきた 相変わらず憎まれ口をたたいているが この二人はお互いに心から好意を抱いている 大和はふてくされて項垂れているが 高い頬骨のあたりが紅潮し 黒くて長いまつ毛が汗か涙かわからないが濡れていた 首筋や鎖骨まで汗がにじんでいる やはり相当痛むのだろう 杏奈はオロオロしながらただ見ていることしか 出来なかった そしてまたドクター佐原は雰囲気を変えて 杏奈達を睨みつけた 「これから数日にわたって 肩の痛みと腫れは増すだろう」 ドクター佐原は続けた 「じゃが不快感があっても普通に腕を使うように でないと筋肉が弱ってしまうからの 今日一日は三角帯で支えて 激しく動かさないように 」 小柄なわりに彼は力が強く 大和が身を起こして座るのを手伝った後 慣れた手つきで首から腕を三角帯で包み端を結んだ そしてまた杏奈をじっと見据えた 「数日間は痛みで寝付けぬかもしれんな 消炎剤と寝つきを良くする薬を処方するから 後で病院に取りに来なさい 一日一回、就寝時のみでそれより多くは飲まさないように」 「あ・・・ありがとうございます」 「それではワシはこれで 」 「ありがとうございます!先生 さっ!よかったら厨房で柚茶でもいかがですか?」 お富が涙をエプロンで拭きながら ドクター佐原を厨房へ案内する 「呼ばれよかの!お富さんの柚茶は絶品じゃ」 ホッホッホッとドクター佐原は笑いながら お富と部屋を出て行った
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