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「そして・・・これだけは断言できるけど
あれほどストレスを抱えて過ごしているんですもの
近い将来彼は絶対ハゲるわよっ!!」
「ヤダ――――――――!」
「ホント?ホント? 」
ボソ・・・・・
「まだ…・大丈夫だと思うんだが・・・」
大和はスマホのミラーアプリを見ながら
右手で前髪をかきあげて生え際を確認した
さらに三人の会話が聞こえてくる
「いい?よくわかった?佐奈
たしかに社長は素敵よ、それは認めるわ
でも若いお嬢さんが恋に落ちる相手として考えた
場合論外だわ!幻滅させちゃって悪いけど佐奈
あなたが一目惚れしたうちのボスなんかじゃなくて
もっと現実的に自分の周りにロマンスは転がってるものよ」
「杏奈先輩がこんな事を言うのを聞いた時のボスの
顔が見たいものだわ 」
クルミが笑い過ぎてゼーゼー言ってる
ボソッ・・・
「・・・こんな顔だが・・・・・」
今や大和はあぐらをかき
頬杖をついて首をかしげていた
「へぇへぇ~!お姉ちゃんとマー君みたいにって
言うんでしょ!もう聞き飽きたわ!」
佐奈がぐるりと目玉を回す
「その通りよ!
私たちは誠実にお互いを尊敬しあって結婚するの!
二人は身の丈もちょうど合ってるし
多くを望んでいないわ!
実際そういうカップルが長く続くのよ」
「ふぇっこん式はいつですか?」
くるみが氷をガリガリ噛みながらしゃべるもの
だからハッキリ聞こえない
冷酒を二本空けているせいですっかり出来上がっている
「来月末よ!大変!それで思い出したわ!
招待状を書かなきゃ!」
両手を口に当てて杏奈が目を丸くする
「結婚式場に頼んだんじゃなかったの?」
と佐奈
「招待状の中に一人ひとり手書きのメッセージを入れたいの!
あと・・キャンドルサービスの動線も決めなきゃ!」
「婚約者さんは手伝ってくれないんですか?」
「マー君はこういう事よくわからないから
全部私に任されてるの 」
クルミがまだガリガリ氷を噛みながら言う
フグ鍋と日本酒のせいで喉が渇く
「結局男性ってそういう時には逃げ腰ですね」
「仕方がないわよ!彼は仕事で忙しいんだから」
杏奈は困った顔で二人を見た
「きっとママが喜んで手伝ってくれるよ」
佐奈も笑って言った
さんざん騒いだ後三人は帰りの電車に乗り遅れないように慌しく店を出た
春先の夜は珍しく蒸し暑く
湾が近いこのあたりは海風の湿った空気が漂っていた
湿気で自分の髪の毛ばかりを気にしている
電車通勤の彼女達はワールドトレードセンター駅
直通通路を通って帰る
なので直通通路から見えるすぐ下の
ふぐ屋源平の高級車がたくさん
停まっている駐車場の端に
日本でも保有者の少ない
シルバーのアストンマーティンが停まっているなんて
彼女達はこれっぽっちも想像していなかった
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