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大和はとっくにフグ鍋を
食べ終わっているにもかかわらず
隣の席の彼女達が出て行ってからも
用心深くずいぶん長い間
待ってから勘定を済ませて店を出た
自宅に戻る道すがらシルバーのアストンマーティンを
オープンカー仕様にし、轟音を立てて走らせ
湾岸線の向こうの水平線に目をやった
髪が風に暴れているのを心地よく感じながら
なんとも今日は骨の折れる一日だったと思い返す
広島まで船で太平洋を横断しながら電話での
喧嘩腰のやり取りやリモート会議がいくつも続いた
さんざんな一日の締めくくりは
せめてもの今自分のお気に入りのフグ屋で
上手い晩飯を食おうと思っただけなのに
今では自分をあろうことかゲイ扱いし
自分と彼女との間で恋愛的な
ロマンスなどありえないと
はっきり断言した姫野杏奈の冷静に落ち着いた声を
思い出さずにはいられなかった
姫野杏奈・・・・・
姫野杏奈・・・・・
ほんの数日前はとても良かった
彼にとっては思いがけず成果のあがった日だった
難航を示していたマーシャル商事と契約を
交わせたのは思いがけずあのクールで
社長室ではいつも無表情の姫野杏奈が
紹介してくれた店のおかげだと思っていた
いつか機会があれば彼女に礼を言おうと思っていた
あの時・・・
嵐のように心はイラついていた時
秘書の姫野杏奈が書類のファイルを持って部屋に入って来た時・・・
アラビア製の絨毯の上を音もなく静かに歩いて
社長室を出て行く彼女の後姿を
大和は静かに見守っていた
ライムグリーンのタイトスカートに包まれた
彼女の形の良いヒップが左右に揺れる様を
眺める事が大和のささやかな楽しみなのは
絶対に誰にもバレてはいけないことだった
彼女は秘書として完璧だった
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